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人事労務コラム Column

2024.07.15

法改正情報

いま注目のリ・スキリングとは?企業実務にかかわる政策も解説!

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2024年5月17日に改正雇用保険法が公布されましたが、改正法には、教育訓練給付の拡充や教育訓練休暇給付制度の創設など、リ・スキリング支援に関する施策が盛り込まれています。そこで、リ・スキリングが必要とされる背景や政府の支援策について見ていきます。

 

前回コラム
【2024年(令和6年)5月施行!】改正雇用保険法のポイント

 

1.リ・スキリングとは

まず、リ・スキリングとは何かについて見ていきます。リ・スキリングについて明確な定義があるわけではありませんが、2021年2月26日に開かれた第2回「経済産業省デジタル人材の人材政策に関する検討会」の資料によると、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」とされています。

リ・スキリングという言葉が最初に使われたのは世界経済フォーラム年次総会、通称「ダボス会議」です。同会議において、2018年に「リ・スキリング革命」と銘打ったセッションが実施され、それ以降、毎年継続的にセッションが行われてきました。2020年には「リスキリングレボリューションプラットフォーム」というプロジェクトを開始し、「2030年までに全世界で10億人をリスキリングする」との宣言を採択したほか、「第4次産業革命により、数年で8,500万件の仕事が消失する一方で9,700万件の新たな仕事が生まれる」と発表しています。

このような世界の動きの背景には、DXの急速な進展があります。技術の進化によって8,500万件の仕事に就いていた人が新しく生まれる9,700万件の仕事に就くためには、既存の技術と新しい技術との大きなスキルのギャップを埋める必要があります。そこで、新しいスキルを学び、新しく生まれる職業に就くこと、すなわちリ・スキリングが必須であると考えられるようになったわけです。

2.日本でのリ・スキリング支援の動き

その後、日本でもリ・スキリングの必要性が叫ばれるようになり、2022年10月には、岸田首相による国会の所信表明演説において、リ・スキリング支援に5年で1兆円の予算を投じる旨が表明されたことを受け、2023年5月には、政府の「新しい資本主義実現会議」において「三位一体の労働市場改革の指針」(以下「指針」という。)が示されました。

指針では、「キャリアは会社から与えられるもの」から「一人ひとりが自らのキャリアを選択する」時代へと変えていく必要があるとし、「職務給の導入」や「成長分野への労働移動の円滑化」とともに、「リ・スキリングによる能力向上支援」を進めることを打ち出しました。

 

3.政府のリ・スキリング支援策

では、指針で示されたリ・スキリング支援策について、とくに実務にかかわるものを中心に見ていきます。

(1)個人への直接支援の拡充

現状では、政府のリ・スキリング支援策は、助成金等による企業経由の支援が中心となっており、その割合は75%に上ります。これについて指針では、労働者が主体的に選択することができるよう、5年以内を目途に、個人経由の給付の割合が過半となるようにし、在職者のリ・スキリング受講者の割合を高めていくとされています。個人経由への給付割合を高めていくにあたっては、民間教育会社が実施するトレーニング・コースや大学が実施する学位授与プログラムなどを含め、業種や企業を問わずスキルの証明が可能なOff-JTでのリ・スキリングによりいっそう重点を置くこととし、習得したスキルの履歴を可視化するデジタル上での資格認証・表示(オープン・バッジ)の活用についても推奨を図ることとされています。

また、雇用保険の教育訓練給付に関し、高い賃金が獲得できる分野、高いエンプロイアビリティの向上が期待される分野について、リ・スキリングのプログラムを受講する場合の補助率や補助上限について拡充を検討することとされています。これについては、前回コラム(【2024年(令和6年)5月施行!】改正雇用保険法のポイント)
で取り上げた改正雇用保険法に盛り込まれており、専門実践教育訓練給付金や特定一般教育訓練給付金といった教育訓練給付の給付率拡充(2024年10月1日施行)や、教育訓練休暇給付金制度の創設(2025年10月1日施行)が予定されています。

(2)雇用調整助成金の見直し

雇用調整助成金については、リーマン・ショックやコロナ禍での雇用維持策としての重要な役割を果たす一方、労働者の職業能力の向上・維持や成長分野への円滑な労働移動を阻害するおそれがあるとの指摘もあることから、在職者によるリ・スキリングを強化するため、2024年4月より、休業よりも教育訓練による雇用調整を選択しやすくするよう、累計の支給日数が30日を超える場合で、教育訓練実施率(休業等の延日数のうち、教育訓練を実施した日数の割合)が一定率以下のときは助成率が引き下げられるよう見直されました。また、教育訓練加算額についても、教育訓練実施率が高い場合は増額されるなど拡充されています。

 

(3)デジタル分野などの認定講座の拡充

デジタル分野へのリ・スキリングを強化するため、専門実践教育訓練について、デジタル関係講座数を拡大(2025年度末までに300講座以上)し、生成AIなど成長が期待され、時代に即した分野に関する講座の充実を図ることとされています。

4.おわりに

ここまでリ・スキリング支援の動向と施策の概要等について見てきました。この新たな潮流の中で企業間競争を生き残るために、今後、教育訓練給付などのリ・スキリング支援施策の利用がますます増加していくものと考えられます。企業実務においては、制度の内容や申請フロー等について理解を深めておくことが重要です。

以上

 


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