2025.02.15
法改正情報
【法改正対応!】2025年(令和7年)4月施行 主な法改正事項について(後編) ~ 次世代法・雇用保険法・高年齢者雇用安定法・障害者雇用促進法の法改正まとめ ~
近年、労働関係諸法令に関する改正が頻繁に行われていますが、本年も多くの法改正事項が4月1日に施行されます。前回は、育児・介護休業法の改正について見ましたが、今回は、次世代法(次世代育成支援対策推進法)、雇用保険法をはじめとするその他の法改正の概要について見ていきます。
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【法改正対応!】2025年(令和7年)4月施行 主な法改正事項について(前編)~ 育児・介護休業法の法改正まとめ ~
目次
1.2025年4月施行の主な改正事項
2025年4月施行の主な改正事項の全体像は以下のとおりです。今回は、以下の図表1のうち、次世代法、雇用保険法、高年齢者雇用安定法、障害者雇用促進法の改正について見ていきます。
【2025年4月施行の主な改正事項】※下線がついている項目は関連コラムにリンクしています。
法律 | 改正項目 |
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育児・介護休業法※ | 育児に関する改正
(1)子の看護休暇の見直し
(2)所定外労働の制限(残業免除)の対象拡大
(3)短時間勤務制度の代替措置にテレワーク追加
(4)育児のためのテレワーク導入の努力義務化
(5)育児休業取得状況の公表義務の対象拡大
(1)介護離職防止のための個別の周知・意向確認等の義務づけ
(2)介護離職防止のための雇用環境整備の義務づけ
(3)介護休暇を取得できる労働者の要件緩和
(4)介護のためのテレワーク導入の努力義務化
|
次世代法 |
次世代法に関する改正
(1)行動計画策定時の状況把握・数値目標設定の義務
(2)くるみん認定、プラチナくるみん認定の認定基準の改正
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雇用保険法 |
(1)「出生後休業支援給付」・「育児時短就業給付」の創設
(3)就業促進手当の見直し
(4)教育訓練支援給付金の給付率引下げおよび当該暫定措置の令和8年度末までの継続
(5)雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例、地域延長給付の暫定措置の2026(令和8)年度末までの継続
(6)高年齢雇用継続給付の給付率引下げ
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高年齢者雇用安定法 | 65歳までの雇用確保の完全適用 |
障害者雇用促進法 | 障害者雇用の除外率の引き下げ |
※の改正内容は「【法改正対応!】2025(令和7年)4月施行 主な改正事項について(前編)」参照
2.次世代法の改正
次世代法では、常時雇用する従業員が101人以上(100人以下は努力義務)の事業主に対し、一般事業主行動計画(以下「行動計画」という。)の策定が義務づけられています。次世代法は時限立法ですが、改正により法律の有効期限が2025年4月から10年間延長(2024年5月31日に施行済み)されたほか、以下の2点が改正され、2025年4月1日に施行されます。
(1)行動計画策定時の状況把握・数値目標設定の義務化
現行法では、行動計画策定にあたって自社のデータ等を把握したり、分析したりすることは求められていませんが、改正後は、行動計画を策定する際に、自社の育児休業等の取得の状況および労働時間の状況を把握するとともに、改善すべき事情について適切な方法により分析した上で、その結果を勘案して行動計画を定めなければならないこととされます。
また、行動計画には、①計画期間、②目標、③目標達成のための内容と実施時期の3つを定める必要がありますが、②の目標について、数値を用いた目標を設定しなければならないこととされます。
(2)くるみん、プラチナくるみん認定等の基準の改正
次世代法に基づく行動計画に定めた目標を達成し、一定基準を満たした場合は、申請により、子育てサポート企業として厚生労働大臣の認定を受けることができます。認定を受けた企業は認定マーク(トライくるみん、くるみん、プラチナくるみん)を自社の商品や広告、求人広告などに付け、子育てサポート企業であることをPRして企業イメージを向上させることができます。
この認定制度の基準について、省令が改正され、男性労働者の育児休業取得率や、時間外労働時間数等の一部の基準が引き上げられます。
3.雇用保険法の改正
(1)「出生後休業支援給付」・「育児時短就業給付」の創設
今回の改正では、従来の育児休業給付(育児休業給付金・出生時育児休業給付金)に加え、新たに「出生後休業支援給付」(出生後休業支援給付金)および「育児時短就業給付」(育児時短就業給付金)が創設されます。
①出生後休業支援給付
出生後休業支援給付として、夫婦ともに育児休業を取得した際に、28日を限度に既存の育児休業給付とあわせて受け取ることができる「出生後休業支援給付金」が創設されます。
出生後休業支援給付金の額は、以下のとおりです。
休業開始時賃金日額 × 対象期間内の出生後休業の日数(上限28日)× 13/100 |
この給付金を現行の育児休業給付金または出生時育児休業給付金(支給率67%)とあわせて受給した場合、休業開始前のおおよそ80%の金額が受け取れることになります。
②育児時短就業給付
育児時短就業給付として、2歳未満の子を養育し、育児時短就業(育児短時間勤務)をしている被保険者に対して支給される育児時短就業給付金が創設されます。
育児時短就業給付金は、高年齢雇用継続基本給付金と同様、支給対象月(育児時短就業を開始した日の属する月から終了した日の属する月までの期間内にある月)ごとに算定されます。給付金の額は、各支給対象月に支払われた賃金額により、以下のとおりとされています。
(a)賃金額が《育児時短就業開始時賃金日額×30》の90/100を下回る場合 ⇒支給対象月に支払われた賃金額×90/100 (b)賃金額が《育児時短就業開始時賃金日額×30》の90/100以上100/100未満の場合 ⇒支給対象月に支払われた賃金額×10/100から一定の割合で逓減するように省令で定める率 |
(2)自己都合退職者が教育訓練等を自ら受けた場合の給付制限解除
現行では、雇用保険の失業等給付(基本手当)を受ける際、離職理由が自己都合の場合は原則として2ヵ月(5年以内に自己都合による離職回数が2回を超える場合は3ヵ月)の給付制限期間が設けられていますが、改正後は、離職期間中や離職日前1年以内に教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受けた場合は、給付制限が解除され、7日の待期期間完了後に基本手当を受給することが可能となります。
なお、通達の改正により、原則の給付制限期間についても2ヵ月から1ヵ月に短縮する一方、5年以内に自己都合による離職回数が2回を超える場合の給付制限期間は3ヵ月とされる予定です。
(3)就業促進手当の見直し
雇用保険の給付の一つである「就業促進手当」には、基本手当の受給資格がある人が早期に安定した職に就いた場合に受けられる「再就職手当」、再就職手当の支給を受けた人であって、その再就職先での賃金が離職前賃金より低下している場合に受けられる「就業促進定着手当」、再就職手当の対象とならない形態で就業した場合に支給される「就業手当」等があります。
今回の改正では、それぞれの手当の支給実績や人手不足の状況等を踏まえ、就業手当を廃止するとともに、就業促進定着手当の給付上限を基本手当の支給残日数の40%相当額(再就職手当として支給残日数の70%が支給された場合は、30%相当額)から20%に引き下げることとされました。
(4)教育訓練支援給付金の給付率引下げおよび当該暫定措置の2026(令和8)年度末までの継続
教育訓練支援給付金は、受講開始時に45歳未満である等、一定の要件を満たす専門実践教育訓練を受講している人が、訓練期間中の受講支援として基本手当の日額の80%相当額を受けられる給付です。この給付金は、2024年度末までの暫定措置とされていましたが、改正後は、給付率が60%相当額に引き下げられた上で、暫定措置が2026年度末まで継続されることとなりました。
(5)雇止めによる離職者の基本手当の給付日数にかかる特例、地域延長給付の暫定措置の2026(令和8)年度末までの継続
基本手当の給付日数については、有期労働契約が更新されなかったこと(雇止め)による離職者の場合、倒産・解雇等により離職を余儀なくされた「特定受給資格者」として扱う暫定措置が適用されています。このため、年齢や被保険者期間によっては一般の受給資格者より多い日数分の給付を受けることができます。改正後は、この暫定措置が2年間延長され、2026年度末まで継続されます。
(6)高年齢雇用継続給付の給付率引下げ
高年齢雇用継続給付は、60歳到達時点に比べて賃金が75%未満に低下した状態で働く60歳以上65歳未満の雇用保険の被保険者に支給される給付です。2025年4月1日以降に60歳に達した日(到達時点において被保険者期間が5年を満たさない場合は、5年を満たすこととなった日)を迎えた被保険者の給付率は以下のとおり引き下げられます(図表2)。
【図表2 高年齢雇用継続給付の給付率】
4.高年齢者雇用安定法の改正(65歳までの雇用確保の完全適用)
高年齢者雇用安定法では、65歳未満の定年を定めている事業主は、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、以下のいずれかの措置を講じなければならないとされています(高年法9条1項)。
① 定年制の廃止 ② 65歳までの定年の引上げ ③ 希望者全員の65歳までの継続雇用制度 |
上記③の措置については、原則として希望者全員(解雇または退職事由に該当する場合を除く。)を継続雇用する必要がありますが、2013年3月31日までに労使協定により継続雇用の対象者を限定する基準を定めていた場合は、段階的に引き上げられる老齢厚生年金の支給開始年齢以上の者について基準を適用することができる経過措置がありました。この経過措置が2025年3月31日に終了するため、4月1日以降は原則どおり、希望者全員を継続雇用する必要があります。
5.障害者雇用促進法の改正(障害者雇用の除外率の引下げ)
障害者雇用促進法では、障害者が就業することが一般的に困難と認められる業種について、常時雇用する労働者から一定割合(除外率)の労働者数を控除することで、障害者の雇用義務を軽減する制度があります。この除外率について、省令の改正により、2025年4月1日以降、業種ごとに、それぞれ10%引き下げられることになりました。なお、現在の除外率が10%以下の業種については、今回の改正で除外率制度の対象外となります。
6.おわりに
前回と今回の2回にわたって2025年4月1日施行の改正を見てきました。改正される法律が多岐にわたるため、自社の実務対応に漏れのないよう、改正内容をしっかり把握することが肝要です。
以上
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