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人事労務コラム Column

2024.11.15

法改正情報

フリーランス保護法施行・「フリーランス」と「労働者」の違いとは? ~ 業務委託先の労働者性についての判断基準 ~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

前回は、フリーランス保護法(フリーランス・事業者間取引適正化等法※1)の指針(※2)の内容について解説しました。
 フリーランス保護法および指針では、業務委託契約を締結するなどしてフリーランスとして働く者を法律の対象としていますが、業務委託契約を締結している場合であっても、実態として労働基準法上の「労働者」と判断される場合にはフリーランス保護法は適用されず、労働関係法令が適用されることとなります。この場合、企業は多額の残業代の支払いを求められたり、メンタル疾患を患った場合に安全配慮義務違反や使用者責任を問われ、損害賠償を請求されるなどのリスクがあり注意を要します。
 そこで今回は、フリーランスと労働者の違いがどのような点にあるのかについて、労働者性の判断基準を示した1985年(昭和60年)12月19日付「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)」(以下「昭和60年研究会報告」という。)をもとに解説します。
 なお、本稿では、フリーランス保護法における特定受託事業者を「フリーランス」、特定業務委託事業者を「発注事業者」といいます。

※1 正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」
※2 正式名称は「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」

 

▽前回コラム
【2024年11月施行!】フリーランス保護法に関する指針の解説  ~ 発注事業者が講ずべき具体的な措置について ~

 

1. 労働者性の判断基準の概要

労働基準法第9条では、「労働者」について、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(略)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と規定しています。この場合の労働者性の有無の判断は、①労働が他人の指揮監督下において行われているか否か、すなわち他人に従属して労務を提供しているか否か、②報酬が「指揮監督下における労働」の対価として支払われているか否かの2つの基準により行われることとなります。
 この2つの基準を総称して「使用従属性」といいますが、この「使用従属性」の有無は、請負契約や委任契約といった契約の形式や名称にかかわらず、個々の働き方の実態に基づいて総合的に判断されます。昭和60年研究会報告では、具体的な判断基準について以下のように示されています。

 

(1)使用従属性に関する判断基準
 ① 指揮監督下の労働であること
 ⅰ)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
 ⅱ)業務遂行上の指揮監督の有無
 ⅲ)拘束性の有無
 ⅳ)代替性の有無
 ② 報酬の労務対償性があること

(2)労働者性の判断を補強する要素
 ① 事業者性の有無
 ② 専属性の程度
 ③ その他

 

2. 各判断基準の詳細

では、労働者性の各判断基準について詳しく見ていきます。

(1)使用従属性に関する判断基準

使用従属性に関する判断基準について、昭和60年研究会報告では以下のように示されています。

① 指揮監督下の労働であること

労働が他人の指揮命令下において行われているか否かは、以下の要素に基づいて判断されます。

 

ⅰ)仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

「使用者」の具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して諾否の自由がある場合には、他人に従属して労務を提供しているとはいえず、対等な当事者間の関係となり、指揮監督関係を否定する重要な要素になります。逆にいえば、発注事業者からの具体的な仕事の依頼や業務に従事するよう指示があったなどの場合に、それを受けるかどうかをフリーランスが自分で決めることができない場合には、指揮監督下の労働であると判断される可能性があります。
 なお、厚生労働省の「労働基準法における労働者性判断に係る参考資料」(以下「参考資料」という。)では、指揮監督関係を肯定する例として以下が挙げられています。

 

(a)指揮監督関係を肯定する方向に働く事情となる例
・発注者等から指示された業務を拒否することが、病気等特別な事情がない限り認められていない場合
(b)指揮監督関係を肯定する方向に働く事情にはただちに該当せず、契約内容なども考慮する必要がある例
・いくつかの作業からなる「仕事」を自分の判断で受注した結果、そこに含まれる個々の作業単位では、作業を断る
 ことができない場合
・特定の発注者等との間に専属の下請契約を結んでいるために、事実上仕事の依頼を拒否することができない場
 合
・たとえば建設工事などのように、作業が他の職種との有機的な連続性をもって行われているため、業務従事の指示
 を拒否することが業務の性質上そもそもできない場合

 

ⅱ)業務遂行上の指揮監督の有無

業務の内容および遂行方法について「使用者」の具体的な指揮命令を受けていることは、指揮監督関係の基本的かつ重要な要素とされています。このため、フリーランスが業務を行う上で、その業務の内容や遂行方法について発注事業者から具体的な指示を受けている場合には、指揮監督下の労働であると判断される可能性があります。
 参考資料では、指揮監督関係を肯定する例として以下が挙げられています。

 

(a)指揮監督関係を肯定する方向に働く事情となる例
・たとえば運送業務において、運送経路、出発時刻の管理、運送方法の指示等がなされているなど、業務の遂行が
 発注者等の管理下で行われていると認められる場合
・たとえば芸能関係の仕事において、映画やテレビ番組の製作会社から俳優や(撮影、照明等の)技術スタッフに
 対して、演技・作業の細部に至るまで指示がなされている場合
・発注者等の命令、依頼等により、通常予定されている業務以外の業務に従事することがある場合
(b)指揮監督関係を肯定する方向に働く事情とならない例
・設計図、仕様書、指示書等の交付によって作業の指示がなされているが、こうした指示が通常「注文者」が行う程
 度の指示に止まる場合

 

ⅲ)拘束性の有無

勤務場所および勤務時間が指定され、管理されていることは、一般的には指揮監督関係の基本的な要素とされています。このため、フリーランスが発注事業者から勤務場所と勤務時間の指定を受け、その指定どおりに業務を行っている場合には指揮監督下の労働であると判断される可能性があります。
 ただし、業務の性質上や、作業者等の安全確保の必要性から勤務場所や勤務時間が指定されている場合もあることから、その勤務場所や勤務時間の指定が業務の性質等によるものか、業務の遂行を指揮命令する必要によるものかを見極める必要があります。
 参考資料では、指揮監督関係を肯定する例として以下が挙げられています。

 

(a)指揮監督関係を肯定する方向に働く事情となる例
・たとえば映画やテレビ番組の撮影で、監督の指示によって一旦決まっていた撮影の時間帯が変動したときに、これに
 応じなければならない場合
(b)指揮監督関係を肯定する方向に働く事情とならない例
・勤務時間は指定され、管理されているが、それが他職種との工程の調整の必要性や、近隣に対する騒音等の配
 慮の必要性などを理由とするものである場合

 

ⅳ)代替性の有無

労務提供に代替性が認められているか否かは、指揮監督関係そのものに関する基本的な判断基準とはされていませんが、発注者等から受けた仕事について、代役を立ててその代役の人にやってもらうことや、発注者等の了解を得ず自らの判断で他の人に依頼して手伝ってもらうことができるなど、代替性が認められる場合には、指揮監督関係を否定する要素となります。このため、フリーランス本人の代わりに他の人が労務を提供することが認められている場合やフリーランスが自らの判断によって補助者を使うことが認められている場合には、指揮監督下の労働でないことを示す要素の一つとなります。

 

② 報酬の労務対償性があること

支払われる報酬の性格が発注事業者の指揮監督の下で一定時間労務を提供していることに対する対価と認められる場合には、使用従属性を補強する要素となります。
 参考資料では、報酬の労務対償性を肯定する例として以下が挙げられています。

 

(a)報酬の労務対償性を肯定する方向に働く事情となる例
・報酬が主として「作業時間」をベースに決定されていて、「仕事の出来」による変動の幅が小さい場合
・仕事の結果や出来映えにかかわらず、仕事をしなかった時間に応じて報酬が減額されたり、いわゆる残業をした場
 合に追加の報酬が支払われるような場合
・報酬が、時間給や日給など時間を単位として計算される場合
・たとえば映画やテレビ番組の撮影において、撮影に要する予定日数を考慮しつつ作品一本あたりいくらと報酬が決
 められており、拘束時間日数が当初の予定より延びた場合には、報酬がそれに応じて増える場合
(b)報酬の労務対償性を肯定する方向に働く事情とならない例
・たとえば文字起こしの仕事において、受注者ごとに音声の録音時間1時間当たりの単価を決めており、録音時間
 数に応じた出来高制としているなど、受注者本人の能力により単価が定められている場合

 

なお、報酬の名目が「賃金」「給与」等であるか否かによって使用従属性の判断に影響を与えることはありません。

(2)労働者性の判断を補強する要素

労働者性が問題となるケースでは、指揮監督の程度や態様の多様性、報酬の性格の不明確さ等から、使用従属性の判断が困難な場合があります。このような場合には、以下の要素についても考慮した上で、総合判断することとなります。

① 事業者性の有無

事業者性の有無は、以下の要素から判断されます。

 

ⅰ)機械、器具の負担関係

労働者は使用者の指揮命令に従って労働するため、通常、その使用する機械や器具は使用者が用意しますが、事業者については自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行っていることが前提となるため、事業遂行に必要な機械や器具は自ら用意するのが原則となります。したがって、仕事に必要な機械や器具をフリーランスが用意し、その機械や器具が著しく高価な場合には、「事業者」としての性格を強め、労働者性を弱める要素となります。

  

ⅱ)報酬の額

受け取る報酬の額がその企業において同種の業務に従事する正規従業員と比較して著しく高額である場合には、その報酬は労務提供に対する「賃金」ではなく、自らの計算と危険負担に基づいて事業経営を行う「事業者」に対する代金の支払いと認められ、労働者性を弱める要素となります。
 ただし、受け取る報酬の額が高額であっても、それが長時間労働の結果であり、単位時間あたりの報酬の額をみると同種の業務に従事する正規従業員と比較して高額とはいえない場合もあることに留意する必要があります。

 

ⅲ)その他

ⅰ)およびⅱ)のほか、裁判例においては、業務遂行上の損害に対する責任を負っていること独自の商号使用が認められていること等について、「事業者」としての性格を補強する要素としているものがあります。

 

② 専属性の程度

特定の企業に対する専属性の程度が高い場合、たとえば、他の発注事業者の業務を行うことが制度上制約されていたり時間的な余裕がなく事実上困難であるような場合や、報酬に固定給部分があるなど生活保障的要素が強いと認められるような場合には、その企業に経済的に従属していると考えられ、労働者性を補強する要素となります。

 

③ その他

昭和60年研究会報告では、裁判例において、ⅰ)採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様であることⅱ)報酬について給与所得としての源泉徴収を行っていることⅲ)労働保険の適用対象としていることⅳ)服務規律を適用していることⅴ)退職金制度、福利厚生を適用していること等、「使用者」がその者を自らの労働者と認識していると推認される点について、労働者性を肯定する判断の補強事由として示しています。
 なお、上記内容はあくまで補強事由であり、上記ⅰ)~ⅴ)の事情がないことが労働者性を否定する判断の補強事由となるわけではないことに留意が必要です。

 

3.おわりに

今回は、労働者性の判断基準について見てきました。労働者性の判断基準のどれか一つを満たしたことをもってただちに労働者と判断されるわけではありませんが、労働者とフリーランスの境界が曖昧にならないよう、契約内容や業務管理、勤怠管理等の取扱いを明確にすることが重要です。
 なお、厚生労働省は、フリーランス保護法の施行日である2024年11月1日より、全国の労働基準監督署に自身の働き方が労働者に該当する可能性があるフリーランスからの労働基準法等の違反に関する窓口を設置しています。発注事業者は法令違反とならないよう法令への理解を深め、適正に対応していくことが求められます。

以上

 


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➡フリーランス保護法の概要についてはこちら(関連コラム)
【2024年(令和6年)11月施行予定!】フリーランス保護法 ~ フリーランス・発注事業者間の取引の適正化について ~
【2024年(令和6年)11月施行予定!】フリーランス保護法 ~ フリーランスの就業環境の整備と罰則の適用等の対応について ~
【2024年11月施行!】フリーランス保護法の指針~ 発注事業者が講ずべき具体的な措置について ~

 

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