2024.11.01
法改正情報
【2024年11月施行!】フリーランス保護法に関する指針の解説 ~ 発注事業者が講ずべき具体的な措置について ~
2024年11月1日にフリーランス保護法(フリーランス・事業者間取引適正化等法※1)が施行されました。この法律では、フリーランスに業務を委託する発注事業者に対して、取引条件の明示や報酬支払期日の設定・支払いを義務づけること等の「取引の適正化」に関する項目のほか、妊娠、出産もしくは育児または介護(以下「育児介護等」という。)に対する配慮等、フリーランスの「就業環境の整備」に関する項目が盛り込まれています。
この「就業環境の整備」に関し、2024年5月31日に指針(※2)が告示され、発注事業者が講ずべき措置について、具体的な取扱いが示されました。今回はこの指針の内容について見ていきます。
なお、本稿では、フリーランス保護法における特定受託事業者を「フリーランス」、特定業務委託事業者を「発注事業者」といいます。
目次
1. フリーランス保護法の概要
フリーランス保護法は、取引上弱い立場に置かれやすいフリーランスが業務委託として受けた業務に安定的に従事することができる環境を整備するために新たに制定された法律で、本年11月1日に施行されました。この法律に定める事項の概要は、以下のとおりです。
a)業務委託した際の取引条件明示の義務づけ
b)発注した物品等に対する報酬支払期日の設定・期日内の支払いの義務づけ
c)禁止事項
② フリーランスの就業環境の整備
a)募集情報の的確表示の義務づけ
b)育児介護等と業務の両立に対する配慮の義務づけ
c)ハラスメント行為にかかる相談対応のための体制整備等の義務づけ
d)中途解除等の事前予告・理由開示の義務づけ
2. 指針の概要
それでは、指針の内容について見ていきましょう。指針では、フリーランスの就業環境の整備に関する事項のうち、募集情報の的確表示、育児介護等と業務の両立に対する配慮、ハラスメント行為にかかる相談対応のための体制整備等の内容について、発注事業者が講ずべき措置の詳細が示されています。
【1】募集情報の的確表示義務(フリーランス保護法第12条)
まずは、募集情報の的確表示義務について見ていきます。
(1)概要
発注事業者は広告等(※1)によりフリーランスを募集(※2)する際は、その募集について、以下の事項を遵守しなければなりません。
① 虚偽の表示の禁止
② 誤解を生じさせる表示の禁止
③ 正確かつ最新の表示の義務
① 虚偽の表示の禁止
意図して実際の就業に関する条件とは異なる募集情報を表示した場合や、実際には存在しない業務に関する募集情報を提供した場合などは、「虚偽の表示」に該当します。法律違反になる例としては以下のようなケースが挙げられます。
なお、応募後に当事者間の合意に基づいて、募集情報の条件から実際の契約条件を変更する場合は虚偽の表示には該当しません。
② 誤解を生じさせる表示の禁止
一般的・客観的に誤解を生じさせるような表示は、「誤解を生じさせる表示」に該当します。発注事業者は「誤解を生じさせる表示」にならないよう、以下の事項に留意して募集を行う必要があります。
③ 正確かつ最新の表示の義務
発注事業者は、以下の措置を講じるなど、募集情報を正確かつ最新の内容に保たなければなりません。
なお、発注事業者は、他の事業者に募集を委託した場合であっても、上記①~③の措置を講じる必要があります。この場合、募集情報の訂正、募集情報の提供の終了または内容の変更について、他の事業者にすみやかに依頼をすることとされています。
(2)対象となる募集情報
的確表示義務の対象となる募集情報については、以下のように定められています。
【図表1 的確表示義務の対象となる募集情報】
募集情報の事項 | 具体的な内容の例 |
---|---|
① 業務の内容 |
・業務委託において求められる成果物の内容または役務提供の内容
・業務に必要な能力または資格
・検収基準
・不良品の取扱いに関する定め
・成果物の知的財産権の許諾・譲渡の範囲
・違約金に関する定め(中途解除の場合を除く。) など
|
② 業務に従事する場所、期間または時間に関する事項 |
・業務を遂行する際に想定される場所、納期、期間、時間 など
|
③ 報酬に関する事項 |
・報酬の額(算定方法を含む。)
・支払期日
・支払方法
・交通費や材料費等の諸経費(報酬から控除されるものも含む。)
・成果物の知的財産権の譲渡・許諾の対価 など
|
④ 契約の解除(契約期間の満了後に更新しない場合を含む。)に関する事項 |
・契約の解除事由
・中途解除の際の費用・違約金に関する定め など
|
⑤ フリーランスの募集を行う者に関する事項 |
・フリーランスの募集を行う発注事業者の名称や業績 など
|
【2】育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(フリーランス保護法第13条)
次に、育児介護等と業務の両立に対する配慮義務について見ていきます。
(1)概要
発注事業者は、フリーランスからの申出に応じて、一定以上の期間により行う業務委託について、フリーランスが育児介護等と業務を両立できるよう、必要な配慮をしなければならないこととされています。この場合の一定期間とは6ヵ月以上とされており、6ヵ月未満の期間で行う業務委託については努力義務とされています。
(2)対象者
配慮の申出ができる者は、発注事業者と業務委託にかかる契約を締結しているフリーランスであって、育児介護等と両立しつつ業務に従事する者とされていますが、現に育児介護等を行っていなくても、育児介護等を行う具体的な予定のある場合は申出をすることが可能です。
(3)配慮の内容
発注事業者が行うべき必要な配慮については、以下のように定められています。
① 申出の内容等の把握
フリーランスから申出があった場合には、発注事業者は話合い等によりその内容を十分に把握しなければなりません。なお、その際、申出の内容を共有する範囲を必要最低限にするなど、プライバシー保護の観点に留意する必要があります。
② 取り得る選択肢の検討
発注事業者は上記①の申出の内容を踏まえて、フリーランスの希望する配慮や、取り得る対応について実施可能か否かを十分に検討することとされています。
③ 配慮の内容の伝達・実施および配慮の不実施の伝達・理由の説明
上記②によって具体的な配慮の内容が決定した場合は、すみやかに申出を行ったフリーランスに対してその内容を伝えて実施する必要があります。
なお、フリーランスが希望する配慮の内容とは異なるものの、フリーランスが配慮を必要とする事情を踏まえて取り得る対応が他にもある場合、フリーランスと話合いを行うなどにより、その意向を十分に尊重した上で、発注事業者がより対応しやすい方法で配慮を行うことは差し支えないとされています。
一方で、配慮の内容や選択肢について十分に検討した結果、業務の性質・実施体制等を踏まえると難しい場合や、配慮を行うと業務のほとんどができない等契約目的の達成が困難な場合などやむを得ず必要な配慮を行うことができない場合には、フリーランスに対して不実施の旨を伝達し、その理由について、必要に応じ、書面の交付・電子メールの送付等により分かりやすく説明することが求められます。
なお、配慮を実施する場合の具体例としては以下のケースが挙げられます。
(4)発注事業者による望ましくない取扱い
発注事業者の以下の行為は、望ましくない取扱いとして指針で示されています。
① フリーランスからの申出を阻害すること
以下のようなケースが該当します。
② フリーランスが申出をしたことまたは配慮を受けたことのみを理由に、契約の解除その他の不利益な取扱いを行うこと
契約の解除その他の不利益な取扱いとなる行為の例としては、フリーランスが申出をしたことまたは配慮を受けたことのみを理由として、以下のような行為を行うことが挙げられます。
また、不利益な取扱いに該当するかどうかは、申出をしたことまたは配慮を受けたこととの間に因果関係がある行為であることが必要です。たとえば、フリーランスが出産に関する配慮を受けたことを理由として、現に役務を提供しなかった業務量に相当する分を超えて報酬を減額するようなケースは不利益取扱いに該当しますが、育児のためこれまでよりも短い時間で業務を行うこととなったフリーランスについて、就業時間の短縮により減少した業務量に相当する報酬を減額するようなケースは不利益取扱いに該当しません。
【3】業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等(フリーランス保護法第14条)
最後に、業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等について見ていきます。
(1)概要
発注事業者は、ハラスメントによりフリーランスの就業環境を害することのないよう相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じなければならないとされ、また相談を行ったこと等を理由として不利益な取扱いをしてはならないとされています。
(2)ハラスメントの種類
業務委託におけるハラスメントは以下のものをいいます。
① セクシュアル・ハラスメント
② 妊娠、出産等に関するハラスメント(マタニティ・ハラスメント)
③ パワー・ハラスメント
業務委託におけるハラスメントは、発注事業者との間で業務委託にかかる契約を締結したフリーランスに対して、その業務委託に関して行われるものをいいます。「業務委託に関して行われる」とは、フリーランスが業務委託にかかる業務を遂行する場所または場面で行われるものをいい、フリーランスが通常業務を遂行している場所以外の場所であっても、フリーランスが業務を遂行している場所は含まれます。
(3)発注事業者が講ずべき措置の内容
発注事業者は、業務委託におけるハラスメントを防止するために、以下の措置を講じることが義務づけられています。
【図表2 発注事業者が業務委託におけるハラスメントを防止するために講ずべき措置の内容】
講ずべき措置 | 具体的な措置の内容 |
---|---|
① 業務委託におけるハラスメントに対する方針の明確化、方針の周知・啓発 |
・ハラスメントの内容およびハラスメントを行ってはならない旨の方針等の明確化と社内(業務委託にかかる契約担当者等)への周知・啓発をすること
・ハラスメント行為者に対しては厳正に対処する旨の方針を就業規則などに規定すること
|
② 相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備 |
・相談窓口を設置し、フリーランスへ周知すること
・相談窓口担当者が相談に適切に対応できるようにすること
|
③ 業務委託におけるハラスメントにかかる事後の迅速かつ適切な対応 |
・事案についての事実関係を迅速かつ正確に把握すること
・事実関係の確認ができた場合、すみやかに被害者に対する配慮のための措置を適正実施すること
・事実関係の確認ができた場合、行為者に対する措置を適正に実施すること
・ハラスメントに関する方針の再周知・啓発など、再発防止に向けた措置を実施すること
|
④ ①~③などの措置と併せて講ずべき措置 |
・①~③の対応にあたり、相談者・行為者などのプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員およびフリーランスに対して周知すること
・フリーランスが相談したこと、事実関係の確認などに協力したこと、労働局などに対し申出をして適当な措置を求めたことを理由に、契約の解除などの不利益な取扱いをされない旨を定め、フリーランスに周知・啓発すること
|
3.おわりに
今回は、フリーランス保護法の指針について見てきました。企業には指針に基づいた制度や体制等の整備が求められますが、その運用にあたっては、業務委託契約を締結している者がこの法律の対象者か否かをしっかり判断する必要があります。形式的には業務委託契約を締結している者であっても、実質的に労働基準法上の労働者と判断される場合には、労働基準関係法令が適用され、フリーランス保護法は適用されません。次回は、労働者性の判断基準について見ていきます。
以上
➡フリーランス保護法の概要についてはこちら(関連コラム)
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ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)