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人事労務コラム Column

2024.10.15

法改正情報

【2024年12月施行!】確定拠出年金の拠出限度額の見直し(後編) ~iDeCoに関する影響など 改正のポイントについて~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

確定拠出年金の掛金拠出限度額が2024年12月から見直されます。前回は、確定拠出年金(以下「DC」という。)および確定給付企業年金(以下「DB」という。)の制度概要について見てきましたが、今回は改正の内容と押さえておきたい実務への影響について解説します。

▽前回コラム
【2024年12月施行!】確定拠出年金の拠出限度額の見直し(前編) ~ 確定拠出年金と確定給付企業年金の概要について ~

 

1.2024年12月改正について

ではまず、今回の改正の背景と具体的な改正内容について見ていきましょう。

(1)現行制度と改正の背景

企業型DCの拠出限度額は月額5.5万円とされていますが、DBや厚生年金基金、私立学校教職員共済制度、石炭鉱業年金基金等(以下、「DB等」という。)にも加入している従業員については、企業型DCの拠出限度額5.5万円からDB等の「掛金相当額」を控除した額が拠出限度額となります。この場合の掛金相当額について、現行制度では、管理を簡便にするため、DB等の掛金相当額の大小にかかわらず一律月額2.75万円と評価することとされています。このため、企業型DCの拠出限度額は5.5万円から2.75万円を差し引いた残りの2.75万円とされています。

一方、DB等は加入者1人当たりの標準掛金が2.75 万円より低いケースが9割を超えている実態があることから、DB等の掛金を一律に評価している点を改め、掛金の実態を反映する算定方法に変更されることとなりました。

(2)企業型DCの拠出限度額の変更

改正後の企業型DCの拠出限度額は、月額5.5万円から各月のDB等の実態の掛金相当額を控除した残額となります。

これにより、1ヵ月のDB等の掛金相当額が2.75万円より少ない場合は、5.5万円からDB等の掛金相当額を控除した残額までDCの掛金を増額することが可能となります。

【改正後のDCおよびDB等の拠出限度額】

現行 2024年12月以降
企業型DCのみに加入 月額5.5万円 月額5.5万円- DB等の掛金相当額
企業型DCとDB等の

両方に加入

月額2.75万円

(5.5万円から一律2.75万円を控除)

 

(3)iDeCoの拠出限度額の変更

企業型DCと同様、個人型の確定拠出年金DCである(iDeCo)についても、企業型DCとDB等の両方に加入している場合の拠出限度額について、DB等の掛金相当額を一律にせず、実態の掛金相当額とする算定方法に変わります。また、DB等のみに加入している場合の拠出限度額も同様に変更されます。なお、いずれの場合も拠出限度額の上限は、月額2万円に変更されることになりました。

今回の改正により、企業型DCの事業主掛金やDB等の利用掛金相当額の評価が大きくなると、iDeCo掛金の拠出限度額上限は小さくなります。iDeCo掛金の最低額は5千円とされているため、改正後は、掛金可能額の枠が5千円を下回ると、従業員がiDeCoの掛金を拠出することはできなくなります。

【個人型DC(iDeCo)の拠出限度額】

国民年金

第2号被保険者

現行 2024年12月以降
企業型DCのみに加入 月額5.5万円-各月の企業型DC

事業主掛金額(月額2万円上限)

月額5.5万円-(各月の企業型DC

事業主掛金額+DB等の掛金相当額)

月額2万円上限)

企業型DCとDB等の

両方に加入

月額2.75万円-各月の企業型DC

事業主掛金額(月額1.2万円上限)

DB等のみに加入

(公務員を含む)

月額1.2万円

 

【改正後のDCおよびDB等の拠出限度額】

 

2. 企業型DCを実施する事業主への影響と対応

次に、企業型DCを実施する事業主への影響について見ていきます。

(1) 企業型DCの拠出限度額の見直しに伴う経過措置

今回改正の内容は上述したとおりですが、すでに現行制度のもとで企業型DCを実施している事業主については、2024年12月以降も旧制度(現行制度)を適用する経過措置が設けられます。

ただし、企業型DCの事業主掛金の算定方法の変更やDB等の給付設計の変更のために規約変更を行った場合、または12月以降、月額2.75万円を超えて企業型DCの事業主掛金を拠出しようとする場合には経過措置の適用が終了となります。

(2)企業型DCの掛金への影響

新制度適用後、DB等を併用して利用しているDC加入者の拠出限度額は、DB等の掛金相当額を一律2.75万円と評価して算定した金額から、「5.5万円-DB等掛金相当額を控除した金額」に変わるため、拠出限度額の枠が変更となる場合があります。

3.DB等を実施する事業主への影響

DB等を実施している事業主への影響について見ていきます。

(1)DB等の掛金相当額の算定と規約への記載

DB等を実施している事業主は、2024年11月1日までに、受託機関と連携してDB等の掛金相当額を算定し、他の掛金額(標準掛金、特別掛金など)と同様に規約に記載する必要があります。

(2)企業年金プラットフォームへの月次登録

DB等を実施している事業主は、iDeCoの拠出限度額の管理のため、DB等の加入者に関する情報を企業年金連合会が整備する企業年金プラットフォームに登録する必要があります。初回登録は2024年11月末日の情報を12月末までに行い、その後は毎月末日におけるDB等の加入者に関する情報を翌月末までに行う必要があります。

(3)DB等の加入従業員への周知

2024年12月以降、DB等の掛金相当額によっては企業型DCやiDeCoの掛金に影響が出る場合があるため、DB等の加入者に向けて現在のDB等掛金相当額の周知が必要です。

4.iDeCoに加入する従業員への影響

iDeCoに加入する従業員への影響を見ていきます(iDeCoは原則個人での手続きとなります)。

(1)iDeCoの掛金を拠出できなくなった場合の脱退一時金について

上記で説明したとおり、iDeCo拠出額が5千円未満となった場合、従業員が掛金を拠出できなくなることが考えられます。その場合、資産額が一定額(25万円)以下である等の要件を満たしている場合には、脱退一時金を受給することができます。

ただし、企業型DCに加入している場合には、iDeCoの個人別管理資産を企業型DCに移管して運用を続けることができるため、脱退一時金を受給することはできません。

(2)iDeCo加入時の事業主証明書の廃止

今回の改正により、拠出限度額の管理のため、iDeCo実施主体である国民年金基金連合会は、企業型DCおよびDB等の掛金相当額についても確認できるようになるため、現在、事業主が行っている下記の手続きは2024年12月より廃止されます。

 ① 従業員がiDeCo加入時・転職時における企業年金の加入状況に関する事業主証明書の発行
 ② iDeCoからの年1回の現況確認

 

5.おわりに

今回は、確定拠出年金の拠出限度額の改正のポイントとそれに伴う制度ごとの影響について見てきました。今回の改正により、確定拠出年金と確定給付企業年金を実施している企業では、掛金相当限度額が変更となるケースもあるため、改正のポイントを押さえ、事前の準備に備えておくようにしましょう。

以上

 


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