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人事労務コラム Column

2024.07.01

法改正情報

【2024年(令和6年)5月成立!】改正雇用保険法のポイント

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2024年5月17日、改正雇用保険法が公布されたことにより、順次、改正雇用保険法が施行されています。本改正により、雇用保険の適用拡大、教育訓練やリ・スキリング支援の充実等が図られ、実務にも影響が生じることが予想されます。そこで今回は、改正雇用保険法のうち、とくに実務に影響の大きいものについて、ポイントとなる事項を見ていきます。

 

▽次回コラム
いま注目のリ・スキリングとは?企業実務にかかわる政策も解説!

 

1.雇用保険の適用拡大(2028年10月1日施行)

現行法では、雇用保険の適用事業所に雇用される労働者が次の労働条件のいずれにも該当する場合、パートタイマーやアルバイトなどの雇用形態や労働者の加入希望の有無にかかわらず、原則として雇用保険の被保険者となります。

【現行法の被保険者の要件】

 ①  1週間の所定労働時間が20時間以上であること
 ②  31日以上の雇用見込みがあること

 

上記の雇用保険の加入要件について、昨今、雇用労働者の働き方や生計維持の在り方の多様化が進展していることを踏まえ、雇用のセーフティネットを広げる観点から、上記の被保険者要件のうち、①の要件である1週間の所定労働時間が「20時間以上」から「10時間以上」に変更され、雇用保険の適用対象が拡大されることとなりました。今回の改正により、1週間の所定労働時間が10時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある労働者は、2028年10月1日以降、原則として雇用保険の被保険者となるため、雇用保険の加入手続きや雇用保険料の徴収が必要となります。また、労働保険の年度更新申告手続きの際は、新たに雇用保険の適用対象となった労働者にかかる雇用保険料(被保険者負担分・事業主負担分)の納付が必要となります。

なお、雇用保険の各給付の算定等に用いられる基準は、原則として、1週間の所定労働時間20時間を基準に設定されているため、これについても、図表1のとおり、現行基準の1/2に併せて改正されます。

 

【図表1】改正前後の基準

改正前 改正後
被保険者期間の算定基準 賃金の支払いの基礎となった日数が
11日以上または、賃金の支払いの基礎となった労働時間数が80時間以上ある場合を1カ月とカウントする
賃金の支払いの基礎となった日数が
6日以上または、賃金の支払いの基礎となった労働時間数が40時間以上ある場合を1カ月とカウントする
失業認定基準 労働した場合であっても1日の労働時間が4時間未満にとどまる場合は失業日と認定する 労働した場合であっても1日の労働時間が2時間未満にとどまる場合は失業日と認定する
法定の賃金日額の下限額①、
最低賃金額②※
①屈折点(給付率が80%となる点)の額の1/2
②最低賃金(全国加重平均)で週20時間を働いた場合を基礎として設定する
①屈折点(給付率が80%となる点)の額の1/4
②最低賃金(全国加重平均)で週10時間を働いた場合を基礎として設定する
※①(毎月勤労統計の平均定期給与額の変化率を用いて毎年自動改定した額)と②を毎年比較し、高い方を賃金日額の下限額として設定
資料出所:厚生労働省「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」参考資料を基に作成

 

2.教育訓練給付の拡充(2024年10月1日施行)

教育訓練給付制度とは、労働者の主体的な能力開発やキャリア形成を支援し、雇用の安定と就職の促進を図ることを目的として、厚生労働大臣が指定する教育訓練を終了した際に、受講費用の一部が「教育訓練給付金」として支給される制度です。教育訓練給付金の対象となる教育訓練には、下記の3種類があります。

【教育訓練給付金の対象となる教育訓練】

 ①  専門実践教育訓練:中長期的なキャリア形成に資する教育訓練が対象
 ②  特定一般教育訓練:速やかな再就職および早期キャリア形成に資する教育訓練が対象
 ③   一般教育訓練  :その他の雇用の安定・就職の促進に資する教育訓練が対象

 

今回の改正では、個人の主体的なリ・スキリング等への直接支援をよりいっそう強化、推進するとともに、その教育訓練の効果(賃金上昇や再就職等)を高めるため、教育訓練給付金の給付率の上限が受講費用の70%から80%に引き上げられました。

また、①の専門実践教育訓練および②の特定一般教育訓練にかかる個別の給付率については省令により改正される予定ですが、厚生労働省の「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」の参考資料(以下「参考資料」という。)」によれば、図表2のとおり、専門実践教育訓練については、教育訓練の受講後に賃金が上昇した場合、現行の本体給付(50%)と追加給付(一定要件を満たした場合に20%)に加えて、更に受講費用の10%(合計80%)が追加で支給されます。また、特定一般教育訓練給付金については、資格取得し、就職等した場合、本体給付(40%)に加え、受講費用の10%(合計50%)が追加で支給されることとなります。

 

【図表2】教育訓練給付金の改正

資料出所:「雇用保険法等の一部を改正する法律(令和6年法律第26号)の概要」参考資料

 

3.自己都合離職者の給付制限の見直し(2025年4月1日)

自己都合で離職する者については、失業給付の受給にあたって、原則として2ヵ月(5年以内に2回を超える場合は3ヵ月)の給付制限期間がありますが、今回の改正により、離職期間中や離職日前1年以内に、自ら雇用の安定および就職の促進に資する教育訓練を行った場合には、給付制限が解除されることとなりました。

また、本改正とあわせて、今後、通達の改正により、原則の給付制限期間が現行の2ヵ月間から1ヵ月間に短縮される(5年以内に3回を超える場合は3ヵ月となる)予定です。

 

4.教育訓練休暇給付金の創設(2025年10月1日施行)

現行の雇用保険制度では、労働者が教育訓練に専念するために仕事から離れる場合に、その訓練期間中の生活費を支援するしくみがないのが現状です。労働者の主体的な能力開発をよりいっそう支援するためには、労働者が訓練中の生活費等への不安なく教育訓練に専念できるようにする必要があることから、今回の改正により、教育訓練休暇給付金制度が創設されました。具体的には、原則として被保険者期間が5年以上ある雇用保険被保険者が教育訓練を受けるための休暇を開始した日から1年間の期間内に無給の休暇を取得した日について、離職した場合に支給される基本手当と同額の給付金(給付日数は、被保険者期間に応じて90日、120日、150日のいずれか)が支給されます。

なお、雇用保険被保険者以外の者にも、省令の改正により、教育訓練費用と生活費を融資対象とする新たな融資制度も創設される予定です。

 

5.おわりに

ここまで改正雇用保険法のうち、実務的に影響が考えられる内容について見てきました。雇用保険被保険者の適用要件が拡大されることにより、被保険者となり得る人員数等の把握や雇用保険料増加のシミュレーション、雇用保険関係手続きのボリュームアップなどに対して準備を進めておくことが重要です。また、教育訓練給付の拡充や教育訓練休暇給付金の創設は、従業員のリ・スキリングを推進する企業の後押しになるものと思われます。

次回は、改正雇用保険法でもその支援施策が盛り込まれた、リ・スキリング支援について見ていきます。

以上

 


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