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人事労務コラム Column

2024.06.01

特集

【テレワークの実務ポイントを解説!】テレワークの推進について ~ テレワークガイドラインのポイント ~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

政府の規制改革実施計画(2023年6月26日閣議決定)を受けて、2024年4月5日に「割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱いについて」(令6.4.5基発0405第6)が発出されました。在宅勤務を含むテレワークについては、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)において、通勤時間の短縮による心身の負担の軽減や業務効率化等により、時間外労働の削減につながったり、育児や介護と仕事の両立の一助となるなどのメリットがあるとして、「更なる導入・定着を図ることが重要である」とされており、今後も制度普及に向けた動きが続くものと思われます。

今回は、ガイドラインから見るテレワークの基本的事項について、実務的な内容を中心に見ていきます。

▽次回コラム
【在宅勤務の新通達を解説!】テレワークの推進について ~割増賃金の算定における在宅勤務手当の取扱い~

 

1.テレワーク導入にあたっての基本的事項

まず、テレワークの形態の種類や、対象業務や対象者など、テレワークを導入するにあたっての基本的事項について見ていきましょう。

(1)テレワークの形態

テレワークの形態は、業務を行う場所に応じて、以下の3つの類型があります。

労働者の自宅で行う「在宅勤務」
メインのオフィス以外に設けられたサテライトオフィスを利用する「サテライトオフィス勤務」
ノートパソコン等を活用して臨機応変に選択した場所で行う「モバイル勤務」

 

本稿では、これらの3つの形態を総称して「テレワーク」といいます。

(2)対象業務および対象者

テレワークの対象業務および対象者は、各企業において任意に定めることができますが、ガイドラインでは、一般的にテレワークの実施が難しいと考えられる業種・職種であっても、個別の業務によっては実施できる場合があるため、これまでの業務のあり方を前提にテレワークの対象業務を選定するのではなく、管理者側の意識を変えることや、業務遂行の方法の見直しを検討することが望ましいとされています。

また、対象者については、パートタイム・有期雇用労働法および労働者派遣法により、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で、あらゆる待遇について不合理な待遇差を設けてはならないとされているため、正規雇用労働者か非正規雇用労働者かという雇用形態の違いのみを理由としてテレワークの対象者から除外することがないよう留意する必要があるとされています。

2.テレワークの費用負担

テレワークをする場合に生じる光熱費や通信費等の費用を労使のどちらが負担するかについて法律上の定めはないため、個々の企業で定めることができますが、ガイドラインでは、「テレワークを行うことにより労働者に過度の負担が生じることは望ましくない」としたうえで、企業ごとの業務内容、物品の貸与状況等により費用負担の取扱いはさまざまであるため、労使のどちらがどのように負担するか、また使用者が負担する場合における限度額や労働者が請求する場合の請求方法等については、あらかじめ労使間で十分に話し合い、就業規則等に定めておくことが望まれるとされています。

一方で、ガイドラインでは、労働者に費用を負担させる定めをする場合には、就業規則等に規定しておく必要があるとされています。これは、労働基準法により、労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合は、就業規則等に費用負担に関する事項を記載しなければならないこととされているためです(労働基準法89条第5号)。

在宅勤務の場合、労働者個人が契約した電話回線等を用いて業務を行わせる際の通話料、インターネット利用料などの通信費が増加する場合や、労働者の自宅の電気料金等が増加する場合、実際の費用のうち業務に要した金額を在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえて合理的・客観的に計算し、支給することも考えられます。なお、在宅勤務手当の取扱いについては、次回詳しく見ていきます。

➡社内諸規程の見直しについてはこちら
 

3.テレワークのルール策定と周知

テレワークを実施する場合には、必要に応じてルールを策定し、労働者に周知する必要があります。以下詳しく見ていきます。

(1)就業規則の整備

ガイドラインでは、テレワークの推進にあたって、企業は、労使で策定したルールを就業規則に定め、労働者に適切に周知することが望ましいとされています。

また、テレワークを行う場所について、労働者がもっぱらモバイル勤務をする場合や、いわゆる「ワーケーション」の場合など、労働者の都合に合わせて柔軟に選択することができる場合には、会社の許可基準を示したうえで、「会社が許可する場所」においてテレワークが可能である旨を定めておくことが考えられるとしています。

(2)労働条件の明示

法令では、会社が労働契約を締結する際、労働者に対して、就業の場所に関する事項等を明示することにされています(労働基準法15条、労基則5条)。

また、労働基準法の改正により、2024年4月以降に契約締結または契約更新をする労働者については、就業場所の変更の範囲の明示が必要となりました。

このため、労働者に対して雇入れ直後からテレワークを行わせることが通常想定される場合は雇入れ直後の就業の場所として、また、その労働契約の期間中にテレワークを行うことが通常想定される場合は変更の範囲として、自宅やサテライトオフィスなど、テレワークを行う場所を明示する必要があります。

4.労働時間管理について

労働基準法には、通常の労働時間制度のほか、フレックスタイム制、変形労働時間制、裁量労働制、事業場外みなし労働時間制などさまざまな労働時間制度がありますが、それぞれの労働時間制度の要件を満たせば、テレワーク実施時に適用することが可能です。

労働時間管理について、テレワークを実施する場合に取扱いが問題となるものとして、一定程度労働者が業務から離れる時間が生じるいわゆる「中抜け」や、勤務時間中に自宅と会社を移動する場合の移動時間等がありますが、これらについて、ガイドラインでは以下のように取り扱うこととされています。

(1)中抜け時間

中抜け時間を把握することとしても、把握せずに始業および終業の時刻のみを把握することとしてもいずれでもよいとしたうえで、取扱いの方法について、次の①、②が考えられるとしています。

中抜け時間を把握する場合には、休憩時間として取り扱い、終業時刻を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇として取り扱う。
中抜け時間を把握しない場合には、始業および終業の間の時間について、休憩時間を除き労働時間として取り扱う。

 

(2)移動時間

勤務時間の一部についてテレワークを行う場合、たとえば、午前中のみ自宅やサテライトオフィスでテレワークを行ったのち、午後からオフィスに出勤する場合などの移動時間について、ガイドラインでは、労働者による自由利用が保障されている時間については、休憩時間として取り扱うことが考えられるとしています。一方、テレワーク中の労働者に対して、使用者が具体的な業務のために急きょオフィスへの出勤を求めた場合など、使用者が労働者に対して業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じ、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は、労働時間に該当するとしています。

5.育児や介護と仕事の両立

育児・介護と仕事の両立支援の点からテレワークを推進するための法改正も予定されています。

2024年5月24日、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律案」が国会で可決、成立し、以下のとおり、育児および介護を行う労働者に対するテレワーク等の措置を講じる努力義務等が定められています。

3歳に満たない子を養育する労働者および要介護状態にある対象家族を介護する労働者で、育児休業および介護休業を取得していない者に対して講じる努力義務措置としてテレワークを追加(努力義務)
3歳に満たない子を養育する労働者で、所定時間外勤務の短縮措置を受けられない者に対する代償措置にテレワークを追加
3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者に対し、労働者の申出により次の措置のうち2以上の措置を講ずる(義務)
   ・始業時刻の変更等
   ・テレワーク
   ・所定労働時間の短縮
   ・新たな休暇の付与
   ・その他厚生労働省令で定める措置

 

本改正の施行日は、①については、2025年4月1日、②③については、公布の日から1年6ヵ月を超えない範囲内において政令で定める日とされています。

法改正への対応として、男女ともに仕事と育児・介護を両立できるよう、社内のテレワークの対象者や対象業務について、あらためて見直すことが求められているといえるでしょう。

以上

 


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