2024.03.01
法改正情報
【2024年4月改正施行!】時間外労働の上限規制 ~医業に従事する医師への適用~
これまで2回にわたって、2024年4月から適用される「工作物の建設の事業」「自動車運転の業務」の時間外労働の上限規制について解説してきました。今回は、同じく2024年4月から適用される「医業に従事する医師」の時間外労働の上限規制について見ていきます。
▽前回コラム
【2024年4月改正施行!】時間外労働の上限規制 ~自動車運転の業務への適用~
1.医業に従事する医師にかかる時間外労働の上限規制について
医業に従事する医師は、これまで時間外労働の上限規制の適用が猶予されていましたが、猶予期間が終了し、 2024年4月より三六協定の上限規制が適用されます。ただし、病院等で診療を行う医師(以下、「特定医師」という。)については、 2024年4月以降も当分の間一部猶予された上限規制が適用されます。
なお、医師であっても、医療を受ける者に対する診療を直接の目的とする業務を行わない者(血液センター等の勤務医や産業医、健診センターの医師等)は特定医師には該当しません(図表1参照)。
【図表1 特定医師の範囲】
2.特定医師の時間外労働の上限規制
特定医師の時間外労働の上限規制について、三六協定の締結によって延長できる労働時間数が月45時間、年360時間までとされる点は原則どおりですが、特別条項付き三六協定を締結する場合および医師個人単位で適用される「実働の上限時間」については、特定医師が所属する医療機関に適用される水準および従事する業務により、通常とは異なる延長時間数の上限が設けられています。医療機関の水準は、原則の「A水準」と「特例水準」に分かれており、特例水準を適用する場合は、都道府県知事の指定を受ける必要があります。以下、各水準の上限規制について、順番に見ていきたいと思います。
(1)A水準
A水準は原則の水準であり、この水準を適用するにあたっては、都道府県知事の指定は必要ありません。A水準が適用される医療機関に勤務する特定医師については、特別条項付き三六協定を締結した場合に延長できる労働時間数の上限は、休日労働を含んで月100時間未満、年960時間とされます。この場合、時間外労働が月45時間を超えることができるのは年6ヵ月までとする規制は適用されません。ただし、協定に一定の事項(1ヵ月の時間外・休日労働が100 時間以上となることが見込まれる特定医師に対して面接指導を実施し、面接指導を行った医師の意見を踏まえて、健康確保のために必要な就業上の適切な措置を講ずること。以下「面接指導等の措置」という。)を定めた場合には、月100時間未満の上限は適用されません。
一方、医師個人単位で適用される実働時間の上限は月100時間未満、年960時間とされ、2~6ヵ月平均80時間以内とする規制については適用されません。また、協定の定めにより面接指導等の措置が講じられた特定医師については、実働時間の上限においても、月100時間未満とする規制は適用されません(図表2参照)。
(2)特例水準(B水準、連携B水準、C水準)
特例水準は救急医療や地域医療の確保等のため、所属医師に原則の水準(A水準)を上回る時間外・休日労働を行わせざるを得ない医療機関が都道府県知事から指定を受けることで適用できる水準であり、次の3種類があります。
① B水準
② 連携B水準
③ C水準
技能向上または高度技能習得のための研修等を行う医療機関において、それらの研修等を受ける医師に
適用できる水準
特別条項付き三六協定を締結した場合の時間外・休日労働の上限は、B水準、C水準は月100時間未満、年1,860時間とされ、連携B水準では月100時間未満、年960 時間とされます。ただし、A水準と同様、協定に面接指導等の措置を定めた場合には月100時間未満の上限は適用されません。また、時間外労働が月45時間を超えることができる回数が年6ヵ月までという規制についても適用されません。
一方、医師個人単位で適用される実働時間の上限は月100時間未満、年1,860時間(連携B水準の場合、派遣元および派遣先の労働時間を通算して年1,860時間)とされ、2~6ヵ月平均80時間以内という規制については適用されません。また、面接指導等の措置が講じられた医師については、実働時間で月100時間未満の上限が適用されない点もA水準と同じです(図表2参照)。
なお、特例水準の特定医師が就労するいずれの医療機関においても、上記の業務に従事する医師以外には1,860時間の上限が適用されない点に留意が必要です。
【図表2 特定医師における時間外労働の上限規制】
※1 労使協定に面接指導等の措置を講じることが定められている場合は適用されない。
※2 労使協定で定めた面接指導等の措置を講じている場合は適用されない。
※3 連携B水準の場合、派遣元および派遣先の労働時間を通算して年1,860時間。
3.特定医師が副業・兼業する場合の労働時間の上限
特定医師が複数医療機関で勤務する場合、各医療機関における労働時間は通算されます。このため、各医療機関は、自院と副業・兼業先の時間外・休日労働時間を通算して、その医師個人に対する上限時間を超えないようにする必要があります。
具体的には、自院と副業・兼業先のいずれもA水準が適用される特定医師については通算で年960時間を超えないようにしなければならず、いずれかの医療機関において特例水準が適用される特定医師については通算で年1,860時間を超えないよう留意しなければなりません(図表3参照)。
【図表3 特定医師が副業・兼業先でも特定医師として勤務する場合】
4.三六協定の新様式について
時間外労働の上限規制の適用猶予期間の終了に伴い、特定医師が就労する事業場における三六協定の様式が変更されます。2024年4月1日以降の日を起算日として締結する三六協定については、新しい書式により届出をする必要があります(図表4参照)。
【図表4 三六協定の新様式について】
時期 | 2024年3月まで | 2024年4月以降 | ||
---|---|---|---|---|
様式 | 第9号の4(適用猶予業務共通) | 一般条項を締結する場合 | 第9号の4 | |
特別条項を締結する場合 | 第9号の5 |
なお、特定医師にかかる三六協定については、通常の締結事項に加え、1ヵ月の時間外・休日労働が100時間以上となることが見込まれる医師に対する面接指導を実施することや時間外・休日労働が特に長時間労働(155時間超)の特定医師に対して必要な措置を講じること、さらに、特例水準については、勤務間インターバル等の健康確保措置についても定める必要があります。
5.おわりに
病院や診療所等に勤務する医師については、所属する医療機関および従事する業務によって上限規制の水準が異なります。また、特例水準の範囲で三六協定を締結しようとする医療機関については、都道府県知事の指定を受けなければならない点に留意が必要です。
以上
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ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)