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人事労務コラム Column

2023.06.01

法改正情報

【2024年4月改正】労働条件明示ルールの変更(前編) ~ 無期転換に関する明示ルールの見直し ~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

本年3月に労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)が改正され、2024年4月1日より労働条件の明示事項や裁量労働制の見直しが行われます。この改正により、労働条件通知書の見直しや新たな通知書の作成が必要になるなど、実務にも大きな影響が生じることが予想されます。

そこで今回は、無期転換に関する明示ルールの見直しについて解説していきます。

前回コラム: 【2023年4月改正】男性労働者の育休取得率等の公表とは~ 実務上のポイントおよび留意点 ~

 

1.無期転換ルールとは

無期転換ルールとは、同一の使用者(企業等)との間で有期労働契約が通算5年を超えて更新された場合に、労働者は、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)への転換の申込みを行うことができることとされており、労働者から申込みを受けたときは、使用者の意思にかかわらず、これを承諾したものとみなされる制度をいいます(労働契約法18条)。

関連コラム: 無期転換ルールへの対応

 

2.無期転換のしくみ

無期転換の申込みができるのは、労働契約期間が通算5年を超えることとなる労働契約期間の初日から末日までの間とされています。無期転換の申込みをするか否かはあくまで有期契約労働者の任意ですが、申込みがあった場合には、現に締結している労働契約が満了する日の翌日から無期労働契約に転換します。

たとえば、図表1で見るように、労働契約を1年ごとに反復更新して5回目の契約更新(更新⑤)を行ったことによって通算契約期間が5年を超えることとなった場合、労働者が無期転換を申し込む権利(以下「無期転換申込権」という。)が発生し、その契約期間の末日までに申込みを行うことにより、その契約が終了する日の翌日から無期労働契約に転換します。

【図表1 無期転換のしくみ】

なお、無期転換申込権が発生した契約期間中に申出を行わなかった場合でも、再度、契約更新(更新⑥)が行われたときは、新たに無期転換申込権が発生し、更新後の有期労働契約の更新期間が満了する日までの間に無期転換の申込みを行うことができます(図表2参照)。

【図表2 無期転換のしくみ(初回の権利を行使しない場合)】

 

3.無期転換に関する明示ルールの見直しの内容

今回の見直しでは、無期転換申込権が発生する有期契約労働者について、以下の2点を書面等により明示することが義務づけられます。

無期転換を申し込むことができること
無期転換後の労働条件

 

まず、①について、現状は、無期転換申込権が発生したことについて使用者が通知等を行う義務はありませんが、改正後は、有期契約の更新により無期転換申込権が発生するタイミングで明示する必要があるということです。

つぎに、②について、現状は、無期転換の申込みの際に無期転換した場合の労働条件を明示する必要はありませんが、改正後は転換後の労働条件を明示する必要があるということです。この場合の明示事項は、基本的に労働契約締結時の明示事項(労基則5条)と同じです。したがって、無期転換申込権が発生する有期労働契約の更新時は、有期労働契約の条件とともに、その労働契約の満了時に無期転換した場合の労働条件を明示する必要があります。

①、②の明示は、無期転換申込権を行使せず有期労働契約を更新する場合には、更新の都度、明示が必要である点に留意が必要です(図表3参照)。

【図表3 無期転換後の労働条件の明示時期】

なお、今回の改正に関連して「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(※)が改正され、上記の無期転換後の労働条件を明示する場合には、他の正社員等との均衡を考慮した事項(業務の内容、責任の程度、異動の有無・範囲など)について、有期契約労働者に説明するよう努めなければならないこととされました。

※ 改正により、2024年4月1日以降、告示の名称が「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」に変更される。

4.実務対応

ここまで見てきたように、改正後は無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに無期転換後の労働条件等の明示が必要となるため、企業の実務担当者としては、有期契約労働者の契約期間が5年を超えているか否かについてしっかりと管理するとともに、明示事項に漏れがないよう注意する必要があります。また、無期転換申込権が発生した際にスムーズに労働条件が明示できるように、転換後の労働条件をあらかじめ整理しておくことが大切です

なお、今回の改正では、有期労働契約の更新上限の明示や、新たに更新上限を設けた場合の説明等も義務づけられることとなりました。このため、無期転換の制度について検討する場合は、その点も考慮する必要があります。次回は、有期労働契約の更新上限も含めたその他の労働条件の明示義務について解説します。

 

 


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次回コラム:
2024年4月改正】労働条件明示ルールの変更(後編)~ 労働条件の明示事項に新たな項目が追加されます ~

 

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