2023.03.15
法改正情報
【法改正!2023年4月解禁】賃金(給与)のデジタル払いとは③ ~制度導入にあたっての実務対応~
前回まで、賃金(給与)のデジタル払いの解禁にかかる省令改正を踏まえて、デジタル払いにかかる制度の内容について解説してきました。
今回は、賃金のデジタル払いを開始する場合に、使用者がいつどのような対応を行う必要があるのかについて見ていきたいと思います。
▽賃金のデジタル払いの関連コラムをチェックする
・賃金のデジタル払いとは①~ 制度の概要と導入のメリットについて ~
・賃金のデジタル払いとは②~ 改正内容のポイント ~
・賃金のデジタル払いとは③~ 制度導入にあたっての実務対応 ~
1.開始時期について
デジタル払い制度そのものは2023年4月より解禁されますが、実際に使用者がデジタル払い制度を導入し運用を開始できるのはいつごろなのでしょうか。
まず賃金のデジタル払いを開始する前に、使用者は後述の手続きを行わなければなりません。どの資金移動業者を利用するかを決定することもこの手続きに含まれますが、利用できる資金移動業者は厚生労働大臣の指定を受けた者(以下「指定資金移動業者」という。)の一覧(厚生労働省より公表予定)から選定する必要があります。資金移動業者がこの指定申請を行うことができるのは2023年4月1日以降とされており、さらに指定に必要な審査には数ヵ月かかることが見込まれています。
このため、実際に賃金のデジタル払いが開始できるのは早くても2023年後半になると考えられます。
【賃金のデジタル払い開始までに想定される流れ】
2.開始に必要な手続き
ここからは、賃金のデジタル払いを開始する場合に必要な手続きの内容について見ていきます。
(1)就業規則、給与規程の改定
賃金のデジタル払いは、賃金の支払方法に当たるため、デジタル払いを開始するにあたっては、労働者が希望する場合に、労働者の指定する指定資金移動業者の口座に賃金を支払う旨を就業規則(給与規程等)に定めておく必要があります(労働基準法89条)。
(2)労使協定の締結
賃金のデジタル払いを行う場合、書面または電磁的記録による労使協定の締結が必要とされています(令4.11.28基発1128第4号)。労使協定に記載が必要な事項は以下のとおりです。
【労使協定への記載事項】
・口座振込み等の対象となる賃金の範囲およびその金額
・取扱金融機関、取扱証券会社および取扱指定資金移動業者の範囲
・口座振込み等の実施開始時期
上記の「取扱金融機関、取扱証券会社および取扱指定資金移動業者」は、1行、1社に限定せず複数とするなど労働者の便宜に十分配慮することが使用者に求められています(前掲通達)。
また、協定は、労使双方の合意がなされたことが明らかな方法(記名押印または署名など)により締結する必要があり、たとえば、電磁的記録により協定を行う場合は、その真正性を担保するため、署名等に代えて、電子署名及び認証業務に関する法律2条1項による「電子署名」を行うことが望ましいこととされています。
なお、デジタル払いのみならず、従来の銀行振込等の方法で賃金を支払う場合にもこの労使協定の締結が必要となりますので留意が必要です。
(3)労働者への説明と同意取得
賃金のデジタル払いを開始するにあたっては、労働者への説明と同意の取得が必要とされています(労働基準法施行規則7条の2)。
①労働者への説明
労働者には、資金移動業者破綻時の口座残高の弁済や不正出金時の補償、口座残高の払い戻し期限等について説明する必要があります。この場合、労働者への説明を指定資金移動業者に委託することは可能ですが、労働者の同意については使用者が取得しなければならないこととされている点に留意が必要です(前掲通達)。
②労働者からの同意取得
労働者からの同意は、書面または電磁的記録により個々の労働者から得ることとされています(前掲通達)。同意書には以下の事項を記載する必要があります。
【同意書への記載事項】
・ | デジタル払いを希望する賃金の範囲およびその金額
※ 利用する指定資金移動業者の口座残高上限額(100万円以下)および1日あたりの払出上限額以下に設定する必要がある
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・ | 労働者が指定する指定資金移動業者名、資金移動サービスの名称、口座番号(アカウントID)、名義人、その他口座特定のために必要な情報(労働者の電話番号等) | |
・ | 賃金のデジタル払いの開始希望時期 | |
・ | 代替口座として指定する銀行口座等の情報
※ 指定資金移動業者口座の受入上限額を超過した分の賃金を労働者が受け取る場合や、指定資金移動業者の破綻時に労働者が弁済を受ける場合等に利用が想定される
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労働者への説明事項ならびに同意書の記載内容については、厚生労働省より同意書の参考例(令4.11.28基発1128第4号別紙)が公表されていますので参考にするとよいでしょう。
なお、賃金のデジタル払いは、従来の銀行振込等の賃金支払い方法と並ぶ選択肢の一つであり、デジタル払いを強制することはできないことに留意しましょう。
3.その他の留意事項
賃金のデジタル払いを実施するにあたっては、このほか、賃金支払日に計算書(給与明細)を交付するとともに、賃金支払日の午前10時頃までに為替取引としての利用が行い得る状態となっていることおよび賃金支払日のうちに賃金の全額が払い出せる状態となっていることが必要とされています。
4.おわりに
今回まで3回にわたって、賃金のデジタル払いにかかる制度の概要および導入実務について解説してきました。
実際にデジタル払いを導入するにあたっては、厚生労働省のリーフレットや、指定資金移動業者に関する情報(資金移動業者の名称、資金移動サービスの名称、資金保全のしくみに関する情報、労働者からの同意取得時に記載が必要な情報など)の一覧も確認のうえ手続きを進めるようにしましょう。
以上
前回コラム: 【法改正!2023年4月解禁】「賃金のデジタル払い」とは ② ~ 改正内容のポイント~
関連コラム: 【法改正!2023年4月解禁】「賃金のデジタル払い」とは ① ~ 制度の概要と導入のメリットについて ~
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)