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人事労務コラム Column

2023.03.05

法改正情報

【法改正!2023年4月解禁】「賃金(給与)のデジタル払い」とは ② ~ 改正内容のポイント~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

前回は、「賃金(給与)のデジタル払い」の改正の背景や制度概要等について解説しましたが、今回は改正内容のうち、とくに押さえておきたいポイントについて見ていきたいと思います。

▽賃金のデジタル払いの関連コラムをチェックする
・賃金のデジタル払いとは①~ 制度の概要と導入のメリットについて ~
・賃金のデジタル払いとは②~ 改正内容のポイント ~
・賃金のデジタル払いとは③~ 制度導入にあたっての実務対応 ~

 

1.改正にあたっての課題

今回の改正にあたっては、次のような点が課題として挙げられています。

【賃金のデジタル払いの解禁にかかる課題】

①  資金移動業者が破綻した場合の資金保全
②  不正引出し等への対応や補償、個人情報の取扱い
③  換金性(適時に賃金を換金または出金できること)の確保
④  労働者からの適切な同意取得、企業の円滑な賃金支払い実務
⑤  厚生労働省による監督指導(資金移動業者の業務遂行体制の確認等)

 

2.改正内容のポイント

今回の改正では、こうした課題に対応するため、労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)において、デジタル払いが認められる資金移動業者の要件や使用者に求められる措置等が規定されました。ここでは、使用者として押さえておきたいポイントについて見ていくことにしましょう。

(1)デジタル払いが認められる資金移動業者の要件

今回の改正により、使用者は、銀行の預貯金口座等とあわせて、資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払い(賃金のデジタル払い)ができることとされました(労基則7条の2)。

ここでいう「資金移動業者」とは、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)に規定する第二種資金移動業を営む資金移動業者であって、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた者(以下「指定資金移動業者」という。)をいいます。この場合の「一定の要件」は、以下のとおりとされています。

【指定資金移動業者の要件】

①  口座残高の受入れ上限額を100万円以下に設定しているか、または超過した場合に速やかに100 万円以下にするための措置(労働者があらかじめ指定した預貯金口座等に超過分の送金を行うことを指す。送金先をほかの指定資金移動業者口座にすることは認められない)を講じていること
②  破綻などにより口座残高の受取りが困難となったときに、労働者に口座残高の全額を速やかに弁済することを保証するしくみを有すること
③  労働者の責めに帰すことができない理由で口座残高に生じた損失を補償するしくみを有すること
④  最後に口座残高が変動した日から、少なくとも 10 年間は労働者が口座残高を受け取ることができる措置を講じていること
⑤  口座への資金移動が1円単位でできるための措置を講じていること
⑥  ATM を利用すること等により1円単位で賃金の受取りができるための措置および毎月(月の1日~月末)1回は利用手数料等の負担なく当該受取りが可能となる措置を講じていること
⑦  賃金支払いに関する業務の実施状況および財務状況について、適時に厚生労働大臣に報告できる体制があること
⑧  賃金の支払いに関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力と十分な社会的信用を有すること

 

指定資金移動業者については、今後、厚生労働省から公表される予定ですので、デジタル払いを導入する場合には、あらかじめ確認するようにしましょう。

(2)使用者に求められる措置

使用者が賃金のデジタル払いを開始しようとする場合は、次の措置を講じることとされています。

① 労働者の同意を得ること

賃金のデジタル払いを開始しようとする使用者は、一定の事項を説明したうえで、書面または電磁的記録により労働者の同意を得なければなりません。ここでいう一定の事項とは、資金移動を希望する額を上限額(100万円)以下に設定する必要があることや、少なくとも毎月1回は労働者に手数料負担が生じることなく資金移動業者の口座から現金での払出しが可能となることなどを指します。具体的な内容については、厚生労働省のホームページに同意書の書式例が掲載されていますので参考にするとよいでしょう。

なお、今回の改正は賃金の支払い方法に新たな選択肢を追加するものであり、労働者および使用者に賃金のデジタル払いを強制するものではない点に留意が必要です。

② 賃金支払い方法の選択

賃金の支払い方法として労働者へデジタル払いを提示する場合、現金払いとデジタル払いのほかに、銀行口座等への支払いもあわせて選択肢として提示しなければならないとされています。この場合、デジタル払いの希望額については労働者が設定することとされているため、賃金の一部をデジタル払いで受け取り、残りを銀行口座等で受け取るという選択をすることも考えられます。

なお、使用者が現金払いとデジタル払いの2つの選択肢のみを労働者に提示することや、形式上、選択肢を提示しただけで実質的にデジタル払いを労働者に強制することは、労働基準法24条に反し、罰則の対象となり得ますので、留意が必要です。

関連コラム:
【人事・労務関連】2023(令和5)年4月施行 主な法改正について

 

3.おわりに

賃金のデジタル払いは、労働者と使用者の双方が希望する場合に限って可能となるものであり、使用者には必ずしも賃金のデジタル払いを導入する義務はありません。一方、労働者のニーズに応えることによって人材の確保や定着などにつながる可能性もあることから、労働者だけではなく使用者にとっても一定のメリットが見込まれるものです。制度を導入するにあたっては、使用者が講ずべき措置や手続きについて、しっかりと理解しておく必要があります。

次回は、賃金のデジタル払いの実施にあたって、使用者に求められる実務対応について見ていきたいと思います。

以上

 

次回コラム: 【法改正!2023年4月解禁】「賃金のデジタル払い」とは ③ ~制度導入にあたっての実務対応~

 

前回コラム: 【法改正!2023年4月解禁】「賃金のデジタル払い」とは ① ~ 制度の概要と導入のメリットについて ~

 

 

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所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

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