2023.03.01
法改正情報
【法改正!2023年4月解禁】 「賃金(給与)のデジタル払い」とは ① ~ 制度の概要と導入のメリットについて ~
賃金(給与)は、通貨で支払うことが原則とされており、例外として、銀行等の金融機関の預貯金口座や証券総合口座への振込みが認められていますが、近年のキャッシュレス決済の普及状況等を踏まえて労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)が改正され、資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払い(以下「賃金のデジタル払い」という。)が新たな例外として認められることとなりました。
そこで、今回から3回にわたって、改正の内容について解説していきます。今回は、改正の背景および制度の概要、制度導入のメリットについて見ていきます。
次回コラム:
【法改正!2023年4月解禁】「賃金のデジタル払い」とは ② ~ 改正内容のポイント~
1.改正の背景
今回の改正の背景には、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進むなかで、賃金のデジタル払いに対するニーズが一定程度見られることが挙げられます。公正取引委員会の報告書によると、2019年12月に実施した消費者向けアンケートにおいて約4割が賃金のデジタル払いを希望すると回答しています(「QRコード等を用いたキャッシュレス決済に関する実態調査報告書・2020年4月21日」)。
また、日本で生活する外国人材の利便性向上を目的とした施策としても、賃金のデジタル払いを制度化することが急がれていました。
2.従来の賃金支払い方法
労働基準法(以下「法」という。)では、賃金支払いについて以下の5原則が定められています(法24条)。
【賃金支払いの5原則】
1.通貨払いの原則 | :賃金は通貨で支払わなければならない |
2.直接払いの原則 | :賃金は労働者に直接支払わなければならない |
3.全額払いの原則 | :賃金はその全額を支払わなければならない |
4.毎月1回以上払いの原則 | :賃金は毎月1回以上支払わなければならない |
5.一定の期日払いの原則 | :賃金は一定期日を定めて支払わなければならない |
上記1.のとおり、賃金は通貨で支払うことが原則とされていますが、この原則には次の例外が認められています(法24条、労基則7条の2)。
【通貨払いの原則の例外】
3.「賃金のデジタル払い」とは
上記のとおり、通貨以外の支払い方法については、銀行口座への振込み等特定の方法に限定されていましたが、労基則が改正され、2023年4月より、労働者の同意を得た場合に賃金のデジタル払いが認められることとなりました。
では、「賃金のデジタル払い」とは、具体的にどのような支払い方法を指すのかについて見ていきたいと思います。
「賃金のデジタル払い」とは、使用者が労働者の賃金を資金移動業者の口座にデジタルマネーで支払うことをいいます。資金移動業者とは、資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という。)に基づき、「資金移動業」(銀行等以外の者が為替取引を業として営むこと)を行う者として、内閣総理大臣の登録を受けた者をいい、たとえばPayPayやLINE pay、楽天ペイ、メルペイなどのスマートフォンの決済アプリを運営する事業者等がこれに該当します。
ただし、賃金のデジタル払いに利用できるのは一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた指定資金移動業者に限られます(要件については、次回「【法改正】2023年4月解禁 「賃金のデジタル払い」について ②」で詳述予定)。
次回コラム:
【法改正!2023年4月解禁】「賃金のデジタル払い」とは ② ~ 改正内容のポイント~
4.制度導入のメリット
それでは、「賃金のデジタル払い」を導入することで、どのようなメリットがあるのでしょうか。労働者と使用者それぞれの観点から見ていきたいと思います。
(1)労働者のメリット
従来、労働者がスマートフォンの決済アプリ等を利用する場合、事前に銀行口座等から必要金額をチャージする必要がありましたが、改正後は、使用者が労働者の銀行口座を介さず直接決済アプリ等に賃金を振り込むことができるようになるため、労働者は事前にチャージすることなくそのままキャッシュレス決済や送金ができるようになります。また、チャージ元の銀行口座と決済アプリ等の連携トラブルでチャージができないといった事態も解消されるようになります。
(2)使用者のメリット
賃金のデジタル払い制度を導入することで、デジタルマネーでの受け取りを希望する労働者の確保・定着につながるとともに、銀行振込より手数料が安価になる可能性があります。ただし、賃金のデジタル払いを実施する場合、労働者が銀行等の口座への支払いも選択できるようにすることが使用者に求められており(次回コラムにて詳述予定)、労働者がデジタル払いと銀行振込の2ヵ所を賃金支払先に指定した場合には、手数料や事務負担が増えることも考えられますので留意が必要です。
5.おわりに
今回は、2023年4月に解禁される「賃金のデジタル払い」にかかる制度の概要と改正の背景について見てきました。
スマートフォンの決済アプリ等を利用する労働者にとっては利便性の向上につながり、使用者にとっても労働者の一定のニーズに応えることで人材の確保や定着も見込めるかもしれませんので、前向きに検討してみてはいかがでしょうか。
次回は改正後の労基則の内容について、ポイントを押さえながら見ていきたいと思います。
以上
次回コラム:
【法改正!2023年4月解禁】「賃金のデジタル払い」とは ② ~ 改正内容のポイント~
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ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)