2023.02.01
法改正情報
【中小企業も対象に!2023年4月改正施行!】 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引上げ③ ~ 施行日までに企業が対応すべき事項等 ~
前2回のコラムでは、労働基準法(以下「法」という。)の改正により、2023年4月から中小企業に適用される「月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率の引上げ」の概要や代替休暇制度について解説してきました。
今回は、月60時間超の時間外労働の対象となる労働時間について、実務上迷いやすいポイントを確認したうえで、施行日までに企業が対応すべき事項について見ていきたいと思います。
▽2023年4月施行の改正労働基準法(割増賃金率の引上げ)の関連コラムをチェックする
・改正概要と月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の計算方法等について
・引上げ分の割増賃金の支払いに代えて付与することができる代替休暇制度について
・施行日までに企業が対応すべき事項(就業規則の見直し等)について
目次
1.月60時間超の時間外労働の対象となる労働時間の取扱い
月60時間超の時間外労働の対象となる時間について、時間・休日労働の取扱いとともに、フレックスタイム制における時間外労働の考え方について見ていきたいと思います。
① 所定時間外労働と法定時間外労働の取扱い
時間外労働には、所定時間外労働(会社が定めた所定労働時間を超える労働)と法定時間外労働(週40時間または1日8時間を超える労働)がありますが、月60時間超の時間外労働の対象となるのは、法定時間外労働であり、1日の所定労働時間が8時間未満の場合における法定内の所定時間外労働の時間は対象となりません。
【所定時間外労働と法定時間外労働の区分(例)】
上記の例では、法定時間外労働の2時間分について、月60時間超の時間外労働のカウントに含める必要があります。
② 所定休日労働と法定休日労働の取扱い
休日には、所定休日(会社が定めた休日)と法定休日(週1日または4週4日の休日)がありますが、法定休日労働の時間は、月60時間超の時間外労働のカウントには含まれません。
一方、所定休日労働のうち、法定時間外労動に当たる部分については、月60時間超の時間外労働のカウントに含まれます。
【所定休日または法定休日に労働した場合の例】
上記の例では、a)の例による所定休日労働の5時間分について、月60時間超の時間外労働のカウントに含める必要があります。
③ フレックスタイム制における60時間超の時間外労働の考え方
フレックスタイム制(法32条の3)を適用している場合、清算期間における法定労働時間の総枠(清算期間の暦日数÷7日×40時間)を超えた時間が法定時間外労働となり、月60時間超の時間外労働のカウントに含まれることとなります。
たとえば、清算期間が1ヵ月の事業場において、法定労働時間の総枠が171時間の月に241時間の労働を行った場合、法定時間外労働に当たるのは70時間(241時間-171時間)であり、このうちの10時間(70時間-60時間)が月60時間超の時間外労働となります。
なお、清算期間が1ヵ月を超える場合には、上記の枠組みのほか、1ヵ月ごとに週平均50時間を超える労働時間が法定時間外労働となるため、法定時間外労働時間数のカウントにあたっては留意が必要です。
2.企業が施行日までに対応すべき事項
次に、改正に伴い、施行日(2023年4月1日)に向けて対応が必要となる事項について見ていきたいと思います。
① 時間外・休日労働に関する協定(三六協定)の確認
月60時間を超える時間外労働は、臨時的な特別の事情が生じた場合に限り、特別条項付き三六協定の締結・届出を要件として、当該協定の範囲で命じることができることとされています(法36条)。割増賃金率引上げへの対応以前に、違法に時間外労働を命じていないかについて、三六協定の内容等を確認しておくことが望まれます。
② 就業規則・雇用契約書等の見直し
月60時間超の時間外労働にかかる1ヵ月の起算日および割増賃金率については、法89条第2号の「賃金の決定、計算及び支払の方法」に当たるため、就業規則に必ず記載する必要があります。具体的には、現行規程において割増賃金率を定めている条文に、1ヵ月の時間外労働のうち60時間を超える部分に対する割増賃金率(50%以上の率)を記載するなどの改定を行うことが必要となります。なお、就業規則の適用範囲を正社員に限定し、パートタイマーやアルバイト等の従業員について雇用契約書により運用している場合には、雇用契約書の内容についても同様に見直す必要があります。
また、代替休暇制度を導入する場合には、その内容についても就業規則に定めなければなりません。
③ 勤怠・給与計算システム等の設定変更(割増賃金率)
2023年4月以降に行われた月60時間超の時間外労働については、50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないため、勤怠・給与計算システム上の割増賃金率等の設定を変更する必要があります。この場合の変更にあたっては、これまで一括管理していた時間外労働時間のうち月60時間以内の時間数と月60時間を超える時間数とを区別し、60時間超の時間数に対して50%以上の割増賃金率を乗じるよう計算式等の変更などの対応が求められます。
なお、月60時間超の時間外労働にかかる「1ヵ月」が改正法の施行日(2023年4月1日)をまたぐ場合、施行日から時間外労働時間を累積して60時間超の時間外労働をカウントすることとされています。たとえば、1ヵ月の起算日が毎月21日の場合、2023年3月21日から4月20日までの時間外労働時間数は、4月1日から4月20日までの時間外労働時間数のみを累計して60時間を超えた部分について50%以上の率で計算した割増賃金を支払うこととされており、3月21日から3月31日までの時間数については、カウントする必要はありません。
④ 労働時間の管理方法の見直し
長時間労働が恒常的に発生している企業では、2023年4月以降、人件費の大幅な増加が見込まれるため、労働時間の管理をより厳格に行う必要があります。労働時間を削減するためには、まず自社の時間外労働の状況について、月60時間超の時間外労働の有無や具体的な時間数等の確認を行うとともに、業務内容や人員配置の見直しなど必要な対策をとっておくことが望まれます。そのうえで、勤怠システム等を活用しながら、長時間労働を行った者やその上司に対して、一定の労働時間ごとにアラートを発信するしくみなどを整えておくとよいでしょう。
なお、労働時間管理の実効性を高める観点からは、実際に部下の労働時間管理を行う管理職の意識が重要となるため、今回の改正法の内容や自社に与える影響、労働時間管理の重要性等について十分に理解してもらうことが肝要です。
3.おわりに
今回まで3回にわたって、2023年4月から中小企業に適用される月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引上げについて見てきましたが、施行日まで残りわずかとなってきましたので、とくに長時間労働が恒常化している企業では、改正法の内容を再確認するとともに、施行日までに必要な検討や対応を実施することが求められます。
以上
関連コラム: 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引上げ① 改正概要と月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の計算方法等について
前回コラム: 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引上げ② 引上げ分の割増賃金の支払いに代えて付与することができる代替休暇制度について
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)