2023.01.15
法改正情報
【中小企業も対象に!2023年4月改正施行!】 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引上げ② ~ 割増賃金の支払いの代わりに!代替休暇制度について解説 ~
2023年4月より、いよいよ「月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引上げ」が中小企業に適用されます。前回は改正点の概要等について見てきましたが、今回は、あらためて改正のポイントについておさらいしたうえで、改正内容の一つである代替休暇制度の詳細と実務上の留意点について見ていきたいと思います。
▽2023年4月施行の改正労働基準法(割増賃金率の引上げ)の関連コラムをチェックする
・改正概要と月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の計算方法等について
・引上げ分の割増賃金の支払いに代えて付与することができる代替休暇制度について
・施行日までに企業が対応すべき事項(就業規則の見直し等)について
目次
1.改正のポイントのおさらい
2010年4月に労働基準法(以下、「法」という。)が改正施行され、月60時間超の時間外労働について、50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないこととされました(法37条但し書き)。中小企業については、当分の間、適用が猶予されてきましたが、2018年の働き方改革関連法の成立に伴って労働基準法が改正され、2023年4月以降、中小企業に対する猶予措置が撤廃されることになりました。
【改正のポイント(施行日:2023年4月1日)】
・ | 中小企業に対して、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が引き上げられることに(改正前:25%以上⇒改正後:50%以上) |
・ | 割増賃金率の引上げ分について、労使協定を締結することにより、割増賃金の支払いに代えて有給の代替休暇を付与することができることに |
2.代替休暇制度の具体的な内容
月60時間を超える時間外労働を行った労働者の健康確保の観点から、労使協定を締結することにより、割増賃金の引上げ分の支払いに代えて有給の代替休暇を付与できることとなります(法37条3項)。ここでは、代替休暇制度の具体的な内容について、労使協定で定める事項に沿って詳しく見ていきたいと思います。
【労使協定で定める事項】
① | 代替休暇の時間数の具体的な算定方法 | |
② | 代替休暇の単位 | |
③ | 代替休暇を与えることができる期間 | |
④ | 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日 |
① 代替休暇の時間数の具体的な算定方法
代替休暇として与えることができる時間数の算定にあたっては、月60時間を超える時間外労働時間数に対して、労働者が代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率(50%以上)と労働者が代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率(25%以上)との差(以下「換算率」という。)を乗じることとされています(下図参照)。
【代替休暇の時間数の算定方法】
労使協定では、この算出方法に従って、代替休暇の時間数の具体的な算定方法を定めることとされています。代替休暇の時間数の算定方法について、具体例を用いて計算すると以下のとおりとなります。
【代替休暇の時間数算定の例】
② 代替休暇の単位
代替休暇の単位は半日または1日とされており、労使協定では、いずれか一方または両方を単位として定めることとされています。
なお、代替休暇の時間数が労使協定で定めた代替休暇の単位(1日または半日)に達しない場合、達しない部分について割増賃金を支払うほか、会社独自の有給休暇制度や時間単位年休等の有給休暇と合わせて代替休暇を取得することが認められています。
【代替休暇の時間数が代替休暇の単位(1日または半日)に達しない場合の取扱い例】
③ 代替休暇を与えることができる期間
代替休暇は、労働者に休息を与えるとの観点から、一定の近接した期間内に与えることとされています。具体的には、月60時間を超える時間外労働が行われた月の翌月初日から2ヵ月以内の期間で与えることとされているため、労使協定では、この期間内で期間を定める必要があります。
④ 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日
賃金の支払額を早期に確定させ、トラブルを防止する観点から、行政解釈では、上記①~③のほかに使用者が労使協定に定めるべき事項として、(ア)代替休暇の取得日の決定方法、および、(イ)割増賃金の支払日が挙げられています(平21.5.29基発第0529001号「労働基準法の一部を改正する法律の施行について」)。
(ア)代替休暇の取得日の決定方法
代替休暇の取得日の決定方法については、たとえば「月末から○日以内に代替休暇の取得に関する意向確認を行う」など、取得日決定のための意向確認の方法等について具体的に定めることが考えられます。
(イ)割増賃金の支払日
割増賃金の支払日については、労働者に代替休暇取得の意向があるかどうかに応じて、それぞれの場合の割増賃金の支払日を定めるものとされています。
労働者に代替休暇取得の意向がある場合には、下図のとおり、まず従来の25%以上の率で計算した割増賃金を通常の支払時期に先行して支払います。引上げ分に当たる残りの割増賃金については、実際に代替休暇を取得したのであれば支払いは不要ですが、結果として代替休暇を取得しなかった場合には、取得しないことが確定した賃金計算期間にかかる賃金支払日に支払うこととされています。
【代替休暇の取得意向がある場合の取扱い例】
一方、労働者に代替休暇取得の意向がない場合には、50%以上の率で計算した割増賃金について、当該割増賃金が発生した賃金計算期間にかかる賃金支払日に支払うこととされています。
3.代替休暇制度にかかる実務上の留意点
次に、代替休暇制度の実務上の留意点について見ていきたいと思います。
① 就業規則等の見直しが必要
代替休暇は、法89条1号の「休暇」に当たるため、制度を導入するにあたっては就業規則に定めをする必要があります。また、代替休暇を取得した場合および取得しなかった場合に支払う各割増賃金率についても、法89条2号の「賃金の決定、計算及び支払の方法」に該当するため、就業規則等に定めることとされています。
② 代替休暇を取得するか否かは労働者の判断による
代替休暇制度にかかる労使協定を締結した場合であっても、実際に代替休暇を取得するかどうかは労働者の判断によるものとされており、使用者が代替休暇の取得を強制することはできません。また、代替休暇の取得日についても、労働者の意向を踏まえて決定されるものであることとされています。
③ 代替休暇を取得した場合でも25%以上の割増率による割増賃金の支払いが必要
ここまで見てきたとおり、代替休暇を与えることにより割増賃金の支払いが不要となるのは、割増賃金率の引上げ分のみであるため、従来の25%以上の割増率による割増賃金については、代替休暇を取得した場合であっても必ず支払わなければなりません。
④ 年次有給休暇の出勤率計算時には代替休暇の取得日数を全労働日から除く
年次有給休暇の付与要件の一つに出勤率がありますが、出勤率を計算するにあたって、代替休暇取得日は、分母の全労働日(所定労働日数)から除くこととされています。このため、誤って分子の出勤日数から除くことがないように注意が必要です。
4.おわりに
今回は、代替休暇の法制度について詳しく見てきました。制度の内容が複雑なことから導入をためらう企業も少なくないものと思われますが、労働者の健康確保や人件費コストの管理の観点から企業にとってもメリットがありますので、上記内容を理解したうえで、導入の検討をしてみてはいかがでしょうか。
次回コラムでは、月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引上げに関して、施行日(2023年4月)までに対応すべき事項等について具体的に解説していきます。
以上
次回コラム: 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引上げ③ 施行日までに企業が対応すべき事項(就業規則の見直し等)について
前回コラム: 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引上げ① 改正概要と月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の計算方法等について
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)