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人事労務コラム Column

2022.11.01

法改正情報

【法改正!2022年7月以降の対応が必要です!】女性活躍推進法 男女の賃金差異の開示義務化の具体的な取扱い(前編) ~ 厚生労働省のQ&A等をもとに賃金差異の算出方法を解説 ~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

女性活躍推進法の省令が改正され、301人以上の企業に男女の賃金差異を開示することが義務づけられました。前回は改正の概要について解説しましたが、今回からは前編と後編の2回にわたって、2022年9月に公表された厚生労働省のQ&A『女性活躍推進法に基づく「男女の賃金の差異」の公表等における解釈事項について』等の内容を踏まえ、具体的な実務について見ていきたいと思います。前編では、男女の賃金差異の算出方法について解説していきます。

▽改正女性活躍推進法の関連コラムをチェックする
-【2022年7月】男女の賃金差異の開示義務化について-
・男女の賃金差異の開示義務化の概要について
・(厚労省Q&Aを基に解説)賃金差異の算出方法について
・(厚労省Q&Aを基に解説)賃金差異の公表方法等について
-【2022年4月】一般事業主行動計画の策定義務等の対象企業の拡大について-
・改正概要および一般事業主行動計画の策定方法等について

 

1.男女の賃金差異の開示義務化の概要

女性活躍推進法では、常時雇用する労働者が101人以上の企業に対して、自社の女性の活躍状況について情報公表することを義務づけていますが、このたび、同法の省令が改正され、常時雇用する労働者が301人以上の事業主に対して、これまでの情報公表義務に加え、新たに「男女の賃金差異」を公表しなければならないこととされました。

関連コラム: 【女性活躍推進法】一般事業主行動計画の策定義務等の対象企業の拡大(労働者数301人以上→101人以上)

 

2.男女の賃金差異の算出方法

男女の賃金差異は、直近の事業年度の総賃金を当該事業年度に雇用した労働者の数(人員数)で除した「平均年間賃金」を「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」、「全労働者」の3つの雇用管理区分ごとに男女別で算出し、それぞれの区分について、女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で除して割合(%)で示すこととされています。

算出にあたっては、下記の手順で進めていくこととなります。

 労働者を雇用管理区分ごとに分類
 人員数と総賃金の算出
 平均年間賃金・割合の算出

 

以下、この流れに沿ってもう少し詳しく見ていきましょう。

(1)雇用管理区分ごとに分類

前述のとおり、男女の賃金差異を算出するためには、労働者を「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」、「全労働者」の3つの雇用管理区分に分ける必要があります(図表1)。

 ① 正規雇用労働者

「正規雇用労働者」とは、期間の定めのないフルタイム労働者をいいます。給与形態が時給制である等、当該企業のいわゆる正社員等と待遇差がある場合であっても、期間の定めのないフルタイム労働者であれば「正規雇用労働者」に区分されます。

 ② 非正規雇用労働者

「非正規雇用労働者」とは、パートタイム労働者(1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される正規雇用労働者に比べて短い労働者)および有期雇用労働者(事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者)をいいます。ただし、派遣労働者は派遣元事業主において算出することとされており、派遣先の事業主の算出対象である「非正規雇用労働者」からは除外されます。

 ③ 全労働者

「全労働者」とは、「正規雇用労働者」および「非正規雇用労働者」をいいます。

【図表1 雇用管理区分の定義】

 雇用管理区分  対象となる労働者
 正規雇用労働者   期間の定めのないフルタイム労働者
 非正規雇用労働者  パートタイム労働者・有期雇用労働者
 全労働者  正規雇用労働者と非正規雇用労働者の合計

 

(2)総賃金と人員数の算出

次に、総賃金と人員数の算出について見ていきます。

 ① 総賃金の算出

総賃金は、直近の事業年度において労働者に支払った賃金の総額です。この総賃金の算出対象となる給与・手当等や算出方法は、次のⅰ)、ⅱ)のとおりです。

ⅰ)対象となる賃金

「総賃金」を算出する際の「賃金」とは、賃金、給与、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対象として使用者が労働者に支払うすべてのものをいいます。ただし、年度を超える労務の対価である「退職手当」や経費の実費弁償的な性格を有する「通勤手当等」は、個々の事業主の判断によりそれぞれ「賃金」から除外する取扱いとして差し支えないこととされています。具体的な賃金の取扱い(例)は、下記のとおりです(図表2)。

【図表2 賃金の取扱い(例)】

 総賃金額からの除外の可否  賃  金
総賃金から除外できないもの 基本給、賞与、超過勤務手当、扶養手当
住宅手当、単身赴任手当
総賃金から除外できるもの
(年度を超える労務に対する対価、実費弁償)
退職手当、通勤手当、旅費、転居費用
ガソリン手当

 

ⅱ)総賃金の算出方法

総賃金の算出方法は、源泉徴収簿等をもとに、男女および雇用管理区分ごとに労働者を分け、各労働者の源泉徴収簿等に記載された支払額の合計をそれぞれ足し合わせることが考えられます。

 ② 人員数の算出

人員数の算出においては、算出方法に加え、短時間勤務者や出向者等をどのように扱うかが問題となります。これらの点については、次のⅰ)、ⅱ)のとおりです。

ⅰ)人員数の算出方法

人員数の算出方法は細かく指定されていませんが、通達(令和4.7.8雇均発0708第2号)では、人員数の算出方法の一例として、各月の特定の日(給与の支払日、月末日など)に雇用している労働者の数の合計値を12ヵ月平均で計算する方法が挙げられています。

また、1ヵ月の就業日数が少ない短日数労働者や、1日の所定労働時間が短い短時間労働者については日および時間を単位として、人員数を1/2日または1/2人などと換算することが可能とされています(図表3)。

【図表3 短日数・短時間労働者の人員数の換算方法(例)】

 人員を数える期間の単位  数え方
日を単位とする場合 1ヵ月のうちの勤務日数を換算して計算する。
(例:1ヵ月(30日)のうち15日のみ勤務している者を1/2月または1/2人としてカウント)
時間を単位とする場合 パートの所定労働時間を用いて計算する。
(例:1日4時間勤務のパート労働者を「1/2日または1/2人としてカウント」)

 

なお、一の事業年度を通じて、労働者数および男女比の変動がほとんど見られない等の事情がある場合は、事業年度の特定の日(たとえば、事業年度の末日や年度半ばの月の末日)に雇用している労働者の数をもって、男女の賃金差異を計算する際の人員数として用いることも可能です。

ⅱ)ケース別の具体的な取扱い

それでは、人員数の算出についてケース別に具体的な取扱いを見ていきましょう。

a)出向者の取扱い

出向者(海外赴任者を含む。)については、企業の実情に応じて取り扱って差し支えないとされています。具体的には、出向元および出向先の事業主のどちらが主として賃金を負担しているか、現に勤務している場所がどちらか等によって出向元、出向先いずれの算定対象とするか判断することが考えられます。

b)休業中の者の取扱い

産前産後休業、育児・介護休業、疾病等により休業している者については、企業の実情に応じて、賃金算定の対象労働者から除外して差し支えないとされています。

c)育児・介護の事情で短時間勤務をしている者または所定外労働・時間外労働・深夜業制限を受けている者の取扱い

育児・介護の事情で短時間勤務等を行っている者については、実態として、育児・介護を行う労働者が一方の性に偏っている場合、男女の賃金差異が大きくなる可能性があります。ただし、両性の働き方や休み方の差異が縮小すれば、男女の賃金差異は縮小されることになるとの考えから、育児・介護の事情で短時間勤務等を行っている者についても賃金算定の対象労働者に含める必要があります。

d)事業年度の途中で入社または退社した者の取扱い

事業年度の途中で入社または退社した労働者について、対象期間中に賃金が支払われている場合には、賃金算定の対象労働者に加えることとされています。ただし、月の途中で入社した者や退職した者等は、事業主の判断により、その月の賃金算定の対象労働者に含めないこととすることも可能です。

 

(3)平均年間賃金と割合の算出

平均年間賃金と割合(男女の賃金差異)を算出するには、まず、男女別に分かれている「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」、「全労働者」の各区分において、「総賃金÷人員数」により平均年間賃金を算出する必要があります。同様に、「全労働者」の区分における平均年間賃金も算出します。

次に、「全労働者」、「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」の3区分において、「女性の平均年間賃金÷男性の平均年間賃金」を計算することで、男女の賃金差異の割合を算出することができます。

3.おわりに

今回は、厚生労働省の『女性活躍推進法に基づく「男女の賃金の差異」の公表等における解釈事項について』等の内容をもとに男女の賃金差異の具体的な算出方法について見ていきました。男女の賃金差異については、総賃金や人員数の算出において、企業の実情に応じた取扱いが認められている一方、男女で異なる取扱いをすることや、初回公表以降一貫性のない取扱いをすることはできませんので、注意が必要です。

後編では、男女の賃金差異の公表方法等について詳しく見ていきましょう。

以上

 


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次回コラム:
(厚労省Q&Aを基に解説)賃金差異の公表方法等について

 

関連コラム:
男女の賃金差異の開示義務化の概要について
改正概要および一般事業主行動計画の策定方法等について

 

 

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