2022.09.01
法改正情報
改正育児・介護休業法の制度の具体的な取扱いとポイント(前編) ~ 厚生労働省の『Q&A』をもとに実務上の具体的な取扱いを解説 ~
人事労務コラムでは、3ヵ月にわたって改正育児・介護休業法の制度の内容や社会保険料免除制度の改正等について見てきましたが、今回は、7月25日に更新・追加された厚生労働省の『令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&A』の内容から、改正法施行後の具体的な実務について、前編と後編の2回に分けて見ていきたいと思います。
目次
1. 育児・介護休業法の改正の概要
改正育児・介護休業法は、2021年6月に公布されました。主な改正事項は次のとおりです。
(1) | 2022年4月1日施行の改正事項(施行済) |
① | 妊娠・出産の申出をした労働者に対する育児休業等に関する個別周知・意向確認措置の義務づけ |
② | 育児休業を取得しやすい雇用環境整備措置の義務づけ |
③ | 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和 |
(2) | 2022年10月1日施行の改正事項 |
① | 出生時育児休業制度の創設 |
② | 育児休業の分割取得 |
③ | 1歳到達日後の育児休業の見直し |
(3) | 2023年4月1日施行の改正事項 |
育児休業の取得の状況の公表の義務づけ(従業員1000人超の企業が対象) |
2.Q&Aの内容から見る実務対応
今回追加・更新された『令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&A』では、上記1.(1)①の「妊娠・出産の申出をした労働者に対する育児休業等に関する個別周知・意向確認措置の義務づけ」、②の「育児休業を取得しやすい雇用環境整備の措置の義務づけ」および(2)①の「出生時育児休業制度の創設」に関するQ&Aが追加されました。そこで、改正事項別に新たに追加された内容について見ていきたいと思います。
なお、『Q&A』の内容は、一見して趣旨が分かるよう題名を付し、原文を一部修正のうえ簡潔な内容にまとめています。
(1)妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別周知・意向確認措置の義務づけ
◆ 個別周知・意向確認の実施方法について(Q2-12)
個別の周知・意向確認の措置について、印刷可能な書面データをイントラネット環境に保管しておき、妊娠・出産等をした者はそれを確認するようにあらかじめ通達等で社内周知しておく、という方法でも書面による措置として認められるのか。 |
上記方法による個別周知・意向確認は認められない。 |
⇒ | 個別周知・意向確認については、妊娠・出産等の事実を申し出た労働者に対して、事業主が「個別に」実施することが義務づけられています。そのため、あらかじめ広く社内周知を行い、妊娠等の申出をした労働者が自らその書面等を確認するといった方法では、個別周知・意向確認における事業主の義務を履行したことにはなりません。 |
➡個別周知・意向確認の内容および方法等はこちら(関連コラム)
(2)育児休業を取得しやすい雇用環境整備措置の義務づけ
◆ 雇用環境整備の措置の実施について(Q3-4)
① |
⇒ | ① | 育児休業にかかる研修を動画によるオンライン研修とすることも可能ですが、事業主の責任において、受講管理を行うこと等により労働者が研修を受講していることを担保することが必要です。 |
② | 研修とは、一般的に「知識等を高めるために、ある期間特別に勉強をすること。また、そのために行われる講習のこと」を意味しますので、単に資料や動画の会社掲示板への掲載や配付のみでは、研修を実施したことにはなりません。 |
◆ 雇用環境整備の措置の実施について(Q3-6)
雇用環境の整備等の措置のうち「育児休業に関する相談体制の整備」について、相談を受け付けるためのメールアドレスやURLを定めて労働者に周知を行っている場合は、相談体制の整備を行っているものとして認められるか。 |
実質的に対応が可能な窓口が設けられていれば認められる。 |
⇒ | 実質的に対応が可能な窓口が設けられていれば、メールアドレス等の方法で労働者に周知することは差し支えありません。 |
なお、「育児休業に関する相談体制の整備」に関する要件は次のとおりです。
① | 相談体制の窓口の設置や相談対応者を置き、これを周知すること。 |
② | 相談窓口は形式的に設けるだけでは足らず、実質的な対応が可能な窓口が設けられていることをいうものであり、労働者に対する窓口の周知等により、労働者が利用しやすい体制を整備しておくこと。 |
◆ 雇用環境整備の措置の実施について(Q3-7)
いずれも定期的な事例の更新や方針の周知が必要。 |
⇒ | ① | 雇用環境整備措置の実施とは、労働者による育児休業申出等が円滑に行われるようにするため、事業主に雇用環境の整備に関する措置を義務づけているものです。育児休業に関する制度は、時間の経過とともに法令改正等(あるいは事業主独自の取組みがある場合はその制度の改変等)が行われることにより、取得時の制度等が変化していくことも考えられるため、社内の制度改正状況や法令改正の状況も踏まえて、定期的に育児休業の取得に関する事例の更新を行い、閲覧した労働者が育児休業申出の参考となる事例にしておく必要があります。 |
② | 育児休業に関する制度および育児休業の取得の促進に関する方針についても、社内制度や法改正の状況、社内での認知状況等を踏まえて、定期的な周知の実施が必要です。 |
(3)出生時育児休業の創設
◆ 出生時育児休業制度に関する改正法の施行前後の取扱いについて(Q5-4)
改正法施行に伴い、現行のいわゆる「パパ休暇」の取扱いはどうなるか。また、現行のいわゆる「パパ・ママ育休プラス」はどうなるか。 |
改正法施行に伴い、「パパ休暇」は廃止となる。「パパ・ママ育休プラス」は引き続き利用が可能。 |
⇒ | 現行法におけるいわゆる「パパ休暇」(子の出生後8週間以内に父親が育児休業を取得した場合には1回の申出としてカウントしない制度)は、出生時育児休業の創設に伴い廃止となります。また、現行のいわゆる「パパ・ママ育休プラス」(両親がともに育児休業をする場合に子が1歳2ヵ月に達するまで育児休業を延長できる制度)は改正法施行後でも、引き続き利用することができます。 |
◆ 出生時育児休業申出期限の変更(Q5-11)
法令で定められた雇用環境の整備等の措置を労使協定で定めることにより、原則2週間前までとされている出生時育児休業の申出期限を最大で1ヵ月前までとしてよいこととされているが、この措置のうち、「育児休業の取得に関する定量的な目標を設定」することについては、グループ会社全体の数値目標を設定すれば要件を満たすことになるか。 |
会社ごとに目標を設定する必要がある。 |
⇒ | 育児・介護休業法上の義務は事業主に課せられているため、グループ内のそれぞれの事業主において、それぞれの事業主が雇用する労働者による育児休業の取得に関する定量的な目標を設定する必要があります。 |
◆ 出生時育児休業申出期限の変更(Q5-12)
出生時育児休業申出期限の短縮に関する雇用環境の整備等の措置のうち、「育児休業の取得の促進に関する方針の周知」については、労働者に1度周知すればそれで十分か。 |
定期的な周知が必要。 |
⇒ | 育児休業の取得の促進に関する事業主の方針の、社内における認知状況等を踏まえて、1度きりではなく定期的に周知する必要があります。 |
◆ 出生時育児休業申出期限の変更(Q5-13)
出生時育児休業申出期限の短縮に関する雇用環境の整備等の措置のうち、「育児休業申出にかかる当該労働者の意向を確認するための措置を講じた上で、その意向を把握するための取組みを行うこと」について、事業主が育児休業申出の意向を確認したものの回答がない労働者がいる場合、この要件を満たすためにはどのような取組みを行えばよいのか。 |
少なくとも回答のリマインドを1回は行う必要がある。 |
⇒ | 最初の意向確認のための措置の後に、回答がないような場合は、回答のリマインドを少なくとも1回は行うことが必要です。なお、その後、労働者から「育児休業の取得はまだ決められない」などの回答があった場合は、「未定」という形で把握することとなります。 |
3.おわりに
今回は、『令和3年改正育児・介護休業法に関するQ&A』から2022年7月25日に更新された内容の一部を見てきました。一部施行済みの改正事項に関するQ&Aもありますが、自社の現状が改正法の趣旨に沿った運用となっているか、あらためて確認をしておくようにしましょう。
後編では、出生時育児休業期間における休業中の就業の実務上の取扱いに関するQ&Aについて見ていきます。
以上
▽改正育児・介護休業法の関連コラムをチェックする
-2022年4月・10月施行の改正概要-
・個別周知・意向確認および雇用環境整備措置の実施について
・出生時育児休業(産後パパ育休)制度の概要について
・出生時育児休業給付金の概要と諸規程・協定等の見直しについて
・育児休業中の社会保険料免除制度の変更点について
-厚労省『Q&A』をもとに実務対応を解説-
・個別周知・意向確認措置、出生時育児休業制度の申出について
・出生時育児休業の対象者と部分就業について
・給与・賞与にかかる保険料免除制度の変更点、育児休業を分割取得した場合の取扱い等について
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)