2022.08.15
法改正情報
改正育児・介護休業法の対応実務(後編)~2022年10月1日・2023年4月1日施行の改正事項~
改正育児・介護休業法(以下「改正法」という。)が2021年6月に公布され、本年4月より段階的に施行されます。前編では、本年4月1日に施行された改正内容と企業の対応実務について解説しましたが、後編では、本年10月1日および来年4月1日に施行される改正事項について解説していきたいと思います。
前回コラム: 「改正育児・介護休業法の対応実務(前編)」
目次
1.育児休業の分割取得(2022年10月1日施行)
現行法では、子が1歳に達するまでの育児休業の取得は、原則として子1人につき1回限りとされており、配偶者の死亡・疾病・負傷等の特別な事情がある場合のみ2回目の取得が可能とされています。
改正法施行後は、育児休業を取得しやすくする等の観点から、育児休業は理由を問わず2回まで分割して取得することが可能となり、改正前と同様、特別な事情がある場合のみ3回目の取得が可能となります。
なお、子の出生後8週間以内にした最初の育児休業を1回の申出とカウントしない、いわゆる「パパ休暇」は、後述の「出生時育児休業(産後パパ育休)」の創設に伴い、廃止されます。
2.育児休業の撤回ルールの見直し(2022年10月1日施行)
子が1歳に達するまでの育児休業が分割して2回まで取得できるようになることに伴い、撤回する場合のルールも変わります。
現行法では、育児休業の申出を撤回した場合、撤回した申出にかかる子については、特別な事情がある場合でなければ再度の申出はできないこととされています。
改正法施行後は、子が1歳に達するまでの育児休業の申出を撤回した場合、その申出にかかる育児休業をしたものとみなされます。たとえば、1回目の申出を撤回した場合、育児休業は2回取得ができることから、1回目については取得したものとみなされ、再度の申出はできませんが、残り1回については申出することができます。
なお、1歳到達日後の育児休業(1歳~1歳6ヵ月、1歳6ヵ月~2歳の休業。以下同じ。)の申出を撤回したときは、従来どおり特別な事情がある場合を除き再度の申出ができないこととされていますが、この点については変更ありません。
3.1歳到達日後の育児休業の見直し(2022年10月1日施行)
1歳到達日後の休業(1歳~1歳6ヵ月の休業および1歳6ヵ月~2歳の休業)について、申出の回数が明確に定められたほか、休業開始日が柔軟化されました。以下、詳しく見ていきましょう。
(1)特別な事情がある場合の再度の申出
現行法では、子が1歳到達日後の休業について、取得できる回数や、特別な事情(たとえば、第2子の産前産後休業が始まったために育児休業が終了した場合で、その後、当該第2子が死亡する等)が生じた場合の再度の申出についての明確な定めはありません。
改正後は、取得できる回数を原則として1回と定めるとともに、以下の特別な事情がある場合には、次の①および②の取扱いができることとされます。
① | 新たな産前産後休業等が始まったことにより育児休業が終了したために、1歳に達する日(1歳6ヵ月~2歳の休業の場合は1歳6ヵ月に達する日)において労働者またはその配偶者が育児休業をしていない(1歳までの育児休業期間と連続した期間でない)場合でも1歳到達日後の育児休業が取得可能。 |
② | 1歳到達日後の育児休業を取得した後でも、再度育児休業を申し出ることが可能。 |
特別な事情 | |||||
・ | 新たな産前産後休業期間が始まったことにより育児休業が終了した場合で、産前産後休業にかかる子が次のいずれかに該当したとき | ||||
a | 死亡したこと | ||||
b | 子が他人の養子となったこと等の事情により、同居しなくなったこと | ||||
・ | 新たな育児休業期間または出生時育児休業期間が始まったことにより育児休業が終了した場合で、新たな育児休業にかかる子が次のいずれかに該当したとき | ||||
a | 死亡したこと | ||||
b | 子が他人の養子となったこと等の事情により、同居しなくなったこと | ||||
c | 特別養子縁組の不成立、養子縁組里親への委託の措置の解除 | ||||
・ | 新たな介護休業期間が始まったことにより育児休業が終了した場合で、対象家族が死亡したときまたは離婚、婚姻の取消し、離縁等により介護休業の対象家族との親族関係が消滅したとき |
(2)休業開始日の柔軟化
1歳到達日後の休業の開始日について、現行法では、1歳~1歳6ヵ月の育児休業は子が1歳に達した日の翌日、1歳6ヵ月~2歳の育児休業は子が1歳6ヵ月に達した日の翌日に限定されているため、夫婦交代で育児休業を取得する場合にも交代できる時期が限定されてしまうという問題がありました。改正後は、原則の開始日は現行のままとしつつ、配偶者が育児休業をしている場合は、「配偶者の育児休業終了予定日の翌日以前の日」を開始予定日とすることができるようになります。
4.出生時育児休業の創設(2022年10月1日施行)
男性の育児休業取得促進を目的として、子の出生後8週間以内に4週間まで休業を取得できる出生時育児休業制度(産後パパ育休)が創設されます。出生時育児休業の詳細については、2022.07.01人事労務コラム「出生時育児休業(産後パパ育休)の概要と実務上のポイント(前編)」を参照してください。
5.1,000人超の企業に育児休業の取得状況の公表の義務づけ(2023年4月1日施行)
男性の育児休業取得を促進するため、常時雇用する労働者の数が1,001人以上の事業主に対して、毎年少なくとも1回、育児休業の取得状況(以下の①、②のいずれか)を公表することが義務付けられる。
① | 前事業年度における男性労働者の育児休業取得率 |
② | 前事業年度における男性労働者の育児休業と育児目的休暇を取得した者を合計して算出する利用率 |
6.おわりに
今回は、2022年10月1日施行および2023年4月1日施行の改正事項について見てきました。10月1日施行の改正は、育児・介護休業規程等の大幅な改定のほか、社内申請様式の見直し等が必要であるため、早めに準備を進めることが肝要です。
以上
▽改正育児・介護休業法の関連コラムをチェックする
-2022年4月・10月施行の改正概要-
・個別周知・意向確認および雇用環境整備措置の実施について
・出生時育児休業(産後パパ育休)制度の概要について
・出生時育児休業給付金の概要と諸規程・協定等の見直しについて
・育児休業中の社会保険料免除制度の変更点について
-厚労省『Q&A』をもとに実務対応を解説-
・個別周知・意向確認措置、出生時育児休業制度の申出について
・出生時育児休業の対象者と部分就業について
・給与・賞与にかかる保険料免除制度の変更点、育児休業を分割取得した場合の取扱い等について
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)