2022.08.01
法改正情報
改正育児・介護休業法の対応実務(前編) ~2022年4月1日施行の改正事項~
改正育児・介護休業法(以下「改正法」という。)が2021年6月に公布され、本年4月より段階的に施行されます。前2回の人事労務コラムでは、改正法で最も注目されている「出生時育児休業制度(産後パパ育休)」についてとり上げましたが、本コラムより、2回にわたって、その他の改正内容と企業の対応実務について見ていきます。
今回は、本年4月1日に施行された改正事項について解説します。
目次
1.個別周知・意向確認措置の義務づけ
育児休業等の取得促進の観点から、労働者本人または配偶者が妊娠・出産したこと等について労働者から申出があったときは、その労働者に対して育児休業に関する制度等について知らせる(「以下「個別周知」という。)とともに、育児休業等の取得の意向を確認するための面談等の措置(以下「意向確認」という。)を講じることが事業主に義務づけられました。以下詳しく見ていきましょう。
(1)「妊娠・出産したこと等」とは
「妊娠・出産したこと等」についての申出には、労働者または配偶者が妊娠・出産した事実のほか、次の事実の申出が含まれます。
① | 1歳未満の子について特別養子縁組前の監護をしていることまたは特別養子縁組を家庭裁判所に請求することを予定しており、その請求にかかる1歳未満の子を監護する意思を明示したこと |
② | 養子縁組里親として1歳に満たない児童を委託されていることまたはその児童を受託する意思を明示したこと |
③ | 本来は「養子縁組里親」として委託すべきであるが、実親等の反対により養子縁組里親として委託できず、「養育里親」として1歳に満たない者を委託されていることまたはその者を受託する意思を明示したこと |
(2)申出の方法
妊娠・出産等の申出は、書面で申し出ることが義務づけられておらず、口頭での申出であっても個別周知・意向確認の措置を実施する必要があります。また、労働者に対して申出の際の証明書類の提出を強制したり、証明書類の提出がないことをもって個別周知・意向確認を実施しないとすることはできません。
(3)個別周知する内容
個別周知する内容として、次の4つの事項が定められています。
① | 育児休業に関する制度 |
② | 育児休業申出の申出先 |
③ | 雇用保険の育児休業給付に関すること |
④ | 労働者が育児休業期間について負担すべき社会保険料の取扱い |
なお、2022年10月以降は、出生時育児休業制度(詳しくは2022.7.1人事労務コラム「出生時育児休業の概要と実務上のポイント(前編)」参照)が施行されますので、その内容についても周知する必要があります。この出生時育児休業制度の施行後の個別周知に関して、指針※1では、出生時育児休業中に一定の範囲内で就業する場合、就業日数によっては育児休業給付や社会保険料免除の要件を満たさなくなる可能性があることについてもあわせて説明するよう留意することとされています。
※1 「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置等に関する指針」。以下同じ。
(4)意向確認措置の内容
事業主は、育児休業取得の意向の有無を確認する必要がありますが、確認した時点で労働者本人がまだ取得するか否かを決めていない場合、最終的な意向まで把握する必要があるのかは問題になるところです。この点について指針では、「意向確認のための働きかけを行えばよい」とされていますので、その場で労働者の意向がはっきりしない場合には、取得の希望があるときに申出をするよう案内をすれば足りるものと考えられます。
(5)個別周知・意向確認措置の方法
個別周知・意向確認措置の方法については、次のいずれかの方法によることとされています。ただし、③、④については労働者が希望する場合に限ります。
① | 面談(オンラインによる面談可、ただし、音声・通話のみは不可)による方法 |
② | 書面を交付する方法 |
③ | ファクシミリを利用して送信する方法 |
④ | 電子メール等の送信の方法(記録を出力するなどして書面を作成できるものに限り、LINEやFacebook等のSNSメッセージ機能の利用を含む。) |
2.雇用環境整備の措置
育児休業の申出が円滑に行われるようにするため、次の①~④のうち、いずれかの措置を講じることが事業主に義務づけられました。この措置は、妊娠・出産した労働者または配偶者の有無または育児休業の対象者の有無にかかわらず、実施しなければなりません
① | 育児休業にかかる研修の実施 |
② | 育児休業に関する相談体制の整備(相談窓口の設置等) |
③ | 自社の労働者の育児休業の取得に関する事例の収集・提供 |
④ | 自社の労働者へ育児休業に関する制度と育児休業の取得促進に関する方針の周知 |
これらの措置の実施については、育児・介護休業法の施行通達(平28.8.2職発0802第1号/雇児発0802第3号 最終改正令3.11.4雇均発1104第2号。以下「通達」という。)に定めがあります。
①の「研修の実施」とは、育児休業等の制度について従業員に向けて研修を実施することです。研修の実施の範囲について通達では、すべての労働者に対して実施することが望ましいとしつつ、少なくとも管理職は研修を受けた状態にすべきとされています。また、研修の実施にあたっては、「定期的に実施する」、「調査を行うなど職場の実態を踏まえて実施する」、「管理職層を中心に職階別に分けて実施する」等の方法が効果的とされています。
②の「相談体制の整備」とは、相談窓口の設置や相談対応者を置き、労働者に周知することです。この場合、窓口を形式的に設けるだけでなく、実質的な対応が可能な窓口を設けることが必要です。
③の「育児休業の取得に関する事例の収集および事例の提供」とは、自社の育児休業の取得事例が掲載された書類の配付やイントラネットへの掲載等を行い、労働者が閲覧できるようにすることとされています。また、事例の提供にあたっては、原則として男女双方の事例を提供すること(事例がない場合を除く。)とし、特定の者の育児休業の申出を控えさせることにつながらないよう、提供する事例に性別や雇用形態等に偏りがないよう配慮することとされています。
④の「育児休業に関する制度および育児休業の取得の促進に関する方針の周知」とは、育児休業に関する制度および取得の促進に関する事業主の方針を記載したものの配付や、事業所内またはイントラネットに掲載等を行うこととされています。
なお、法律上はいずれか一つの措置を実施すれば問題ありませんが、指針では、「可能な限り、複数の措置を行うことが望ましい」とされています。
3.有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件緩和
改正前の有期雇用労働者の育児休業および介護休業の取得要件は「①事業主に引き続き雇用された期間が1年以上の者」、「②養育する子が1歳6ヵ月に達する日まで(介護休業の場合は「介護休業開始予定日から6ヵ月を経過する日まで」)に、労働契約が終了することが明らかでない者」の2点でしたが、改正後は①の要件が廃止され、②の要件のみとされました。このため、勤続1年未満の有期雇用労働者であっても、育児休業および介護休業の申出が可能となりました。
なお、改正前より、育児・介護休業法では、期間雇用か無期雇用かにかかわらず、労使協定の締結により引き続き雇用された期間が1年未満の者を育児休業および介護休業の対象外とすることは可能であり、この点については改正後も変更ありません。したがって、労使協定を締結すれば、勤続1年未満の有期雇用労働者を引き続き対象外とすることは可能です。ただし、改正前に締結した労使協定については、有期雇用労働者も含めて対象外とすることについて、再度締結し直す必要がある点に注意が必要です。
4.おわりに
今回とり上げた改正事項は、企業規模を問わずすべての企業に義務づけられ、本年4月1日にすでに施行されています。これらの改正に対応できていない場合は、制度の整備が急務です。
後編では、2022年10月1日施行の改正事項を中心に見ていきたいと思います。
以上
▽改正育児・介護休業法の関連コラムをチェックする
-2022年4月・10月施行の改正概要-
・個別周知・意向確認および雇用環境整備措置の実施について
・出生時育児休業(産後パパ育休)制度の概要について
・出生時育児休業給付金の概要と諸規程・協定等の見直しについて
・育児休業中の社会保険料免除制度の変更点について
-厚労省『Q&A』をもとに実務対応を解説-
・個別周知・意向確認措置、出生時育児休業制度の申出について
・出生時育児休業の対象者と部分就業について
・給与・賞与にかかる保険料免除制度の変更点、育児休業を分割取得した場合の取扱い等について
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)