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人事労務コラム Column

2022.07.15

法改正情報

【2022年10月施行】出生時育児休業(産後パパ育休)の概要と実務上のポイント(後編) ~出生時育児休業に関する社会保険制度とその他の実務上の対応~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

前編は、改正育児・介護休業法により創設される「出生時育児休業制度(産後パパ育休)」の創設の背景と概要について見てきました。後編では、出生時育児休業に関連する社会保険制度の改正とその他実務上の対応について見ていきたいと思います。

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1. 雇用保険における出生時育児休業給付金の創設

育児休業中は、一定の要件を満たす場合、雇用保険から「育児休業給付金」が支給されますが、出生時育児休業制度が創設されることに伴い雇用保険法が改正され、新たに「出生時育児休業給付金」が創設されました。改正法の施行日は、出生時育児休業制度と同様、2022年10月1日です。

では、制度の概要について見ていきましょう。

(1)支給要件

出生時育児休業給付金が支給される要件は、育児休業給付金と同様、原則として「出生時育児休業開始日(分割して取得する場合は、初回の休業開始日)前2年間に、賃金支払基礎日数が11日以上、または就業時間数が80時間以上の完全月が12ヵ月以上あること」です。また、この「前2年間」に疾病や負傷、出産等の事由により引き続き30日以上賃金の支払を受けなかった場合は、その間の日数を前2年間に加算することができます(最大4年まで)。

(2)支給期間や支給回数、支給申請

出生時育児休業給付金は、出生時育児休業が分割取得できることを踏まえ、最大28日の間で2回まで支給されます。また、支給申請は、「子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日から2ヵ月経過日が属する月の末日まで」に行うこととされています。たとえば、出生日が2022年10月15日の場合は、8週間を経過する日の翌日が2022年12月10日ですので、その2ヵ月後の末日である2023年2月末が申請期限となります。なお、出生時育児休業を2回に分割した場合でも出生時育児休業給付金は1回にまとめて申請する必要があります。

(3)出生時育児休業給付金の額

出生時育児休業給付金の額は以下の算式により算出します。

休業開始時賃金日額×支給日数×支給率(67%)

 

「休業開始時賃金日額」は、原則として出生時育児休業開始前6ヵ月間の賃金を180で除した額です。また、「支給日数」は、出生時育児休業を取得した日数の合計です。「支給率」は、育児休業給付金の開始後6ヵ月間の支給率と同様、67%です。

なお、出生時育児休業給付金が支給された日数は、育児休業給付金が支給率67%で支給される日数の上限である180日に通算される点に留意が必要です。

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(4)休業期間中に就業した場合の取扱い

出生時育児休業給付金は、就労した日数が以下の日数を超える場合は支給されません。出生時育児休業の就業日数を決定する際は留意が必要です。

休業日数の合計 就労日数
休業日数の合計が28日の場合 10日(10日を超える場合は80時間)
休業日数の合計が28日未満の場合 10日×休業日数÷28日(1日未満の端数は切り上げる)

※上記日数を超える場合は80時間×休業日数÷28日

 

(5)休業期間中に賃金が支払われた場合の取扱い

出生時育児休業期間中に賃金が支払われた場合の出生時育児休業給付金の調整は、現行の育児休業給付金の仕組みと同様で、以下のとおりです。

支払われた賃金額 給付金の調整
休業開始時賃金日額に支給日数を乗じた額の13%以下 給付金は全額支給
休業開始時賃金日額に支給日数を乗じた額の13%超80%未満 休業開始時賃金日額×支給日数の金額の80%から賃金額を差し引いた差額を支給
休業開始時賃金日額に支給日数を乗じた額の80%以上 給付金は支給されない

 
 

2. 育児休業中の保険料免除の改正

健康保険法および厚生年金保険法の改正により、2022年10月から育児休業等期間中の社会保険料の免除制度が大きく変わります。ここでは改正内容の概要と出生時育児休業における留意点を見ていきます。

(1)育児休業中の保険料免除の改正

育児休業中における健康保険、厚生年金保険の保険料免除は、現行では月の末日時点で育児休業をしている場合に当該月の保険料が免除される仕組みとなっていますが、改正後は、月末時点で育児休業を取得していることに加え、末日を含まない月中に14日以上の育児休業を取得した場合も保険料が免除されます。また、賞与の保険料については、育児休業の期間が1ヵ月超の場合に限り免除されます。

(2)出生時育児休業における留意点

出生時育児休業期間中は社会保険料免除の対象ですが、前述の2(1)のとおり、月の末日時点で休業をしているか、月中の14日以上の休業でなければ保険料は免除されません。出生時育児休業は分割取得などにより休業が短期間になるケースが想定されるため、保険料免除の要件を満たさない場合は事前に説明するなどの対応が望まれます。

なお、同月内に短期間の休業を2回取得した場合は、通算して14日以上であれば保険料が免除されます。

➡育児休業中の社会保険料免除制度に関する変更点の詳細はこちら

 

3. その他の実務上の対応

ここからは、出生時育児休業創設に伴う企業の実務対応について見ていきたいと思います。

(1)育児・介護休業規程等の改定

育児休業規程等に出生時育児休業に関する定めを追加することが必要です。出生時育児休業は、法律上、取得要件等が別に定められていたり、労使協定の締結により一定範囲の就業が認められていたりするなど、育児休業とは制度内容が異なっているため、規程等に定める際は、育児休業とは別の独立した条文として定めることが望ましいでしょう。

なお、出生時育児休業の創設に伴い、現行法にある育児休業の再度取得の特例(いわゆる「パパ休暇」)は廃止されます。このため、規程にパパ休暇の定め(「産後休業をしていない従業員が子の出生後8週間以内にした最初の育児休業は1回の申出にカウントしない」等)がある場合は削除が必要です。

➡社内諸規程の見直しについてはこちら
 

(2)社内様式の見直し

出生時育児休業の創設に伴い、社内様式も大きく見直す必要があります。以下の書式に関しては改定または新設が必要となる可能性があります。

出生時育児休業申出書(新規作成)
育児休業取扱通知書(出生時育児休業への対応追加)
対象児出生届(出生時育児休業への対応追加)
休業申出撤回届(出生時育児休業への対応追加)
出生時育児休業中の就業可能日等申出・変更申出書(新規作成)※
出生時育児休業中の就業可能日等申出撤回届(新規作成)※
出生時育児休業中の就業日等の提示(新規作成)※
出生時育児休業中の就業日等の【同意・不同意】書(新規作成)※
出生時育児休業中の就業日等撤回届(新規作成)※
出生時育児休業中の就業日等通知書(新規作成)※
 ※ ⑤~⑩は、出生時育児休業中の就業を認める場合に必要な書式

 

(3)労使協定の締結

出生時育児休業は原則として2週間前に申し出ることとされていますが、申出期限を2週間超1ヵ月以内とする場合は労使協定を締結し、以下の①~③のすべての措置を講じる必要があります。

以下の雇用環境整備のための措置のうち、2つ以上の措置を講じること
a) 自社の労働者に対する育児休業に関する研修の実施
b) 育児休業に関する相談体制の整備(相談窓口設置)
c) 自社の労働者の育児休業取得事例の収集および該当事例の提供
d) 自社の労働者への育児休業制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
e) 育児休業申出をした労働者の育児休業の取得が円滑に行われるようにするための業務の配分または人員の配置に係る必要な措置
育児休業の取得に関する定量的な目標を設定し、育児休業の取得の促進に関する方針を周知すること
育児休業申出にかかる当該労働者の意向を確認するための措置を講じたうえで、その意向を把握するための取組みを行うこと

 

労使協定には、①~③について講じる措置および申出期限(2週間超1ヵ月以内の範囲)を記載する必要があります。

また、出生時育児休業中に就業を可能とする場合、その旨を労使協定に記載し締結する必要があります。

(4)「個別周知」の内容・文書の見直し

2022年4月1日の法改正により、労働者本人または配偶者の妊娠・出産等について労働者から申出があったときは、当該労働者に対して、事業主は育児休業の制度等に関する事項について個別に周知し、育児休業取得の意向確認を行うことが義務づけられました。この個別周知の内容について、2022年10月からは出生時育児休業等の改正内容を反映させる必要があります。個別周知の方法は、①面談による方法、②書面を交付する方法、③ファクシミリを利用して送信する方法、④電子メール等の送信の方法(③、④は労働者が希望した場合に限る)とされていますが、個別周知に書面を用いている場合は、内容の見直しが必要となるので、注意を要します。また、この点について育児介護施行通達では、2022年10月より前に申出が行われた場合でも、子の出生が10月以降に見込まれるような場合には、出生時育児休業制度も含めて周知することが望ましいとされています。


 

4.おわりに

出生時育児休業は、今回の法改正で新たに設けられた制度であり、休業期間中の就業が可能であることなどこれまでの育児休業と異なる点があるため、新制度の内容についてよく理解し、本年10月の施行に向けて準備するようにしましょう。

以上

 


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