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人事労務コラム Column

2022.04.15

法改正情報

【2022年1月施行】任意継続被保険者制度の取扱いの変更に関する実務上のポイント

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2022年1月1日より改正健康保険法が施行され、傷病手当金と任意継続被保険者制度の取扱いに変更がありました。今回は、任意継続被保険者制度の変更について解説したいと思います。

任意継続被保険者制度の改正内容には、「資格喪失事由の変更」と「健康保険組合における保険料算定方法の変更」の2つがあり、これらの実務上の取扱いについて、厚生労働省から2021年11月10日に「傷病手当金及び任意継続被保険者制度の見直しに関するQ&A」(以下「Q&A」という。)が公表されています。そこで、改正点の概要を確認したうえで、Q&Aの内容をもとに実務上の留意点について見ていきたいと思います。

前回コラム: 【2022年1月施行】傷病手当金の支給期間の取扱いの変更に関する実務上のポイント

 

1.任意継続被保険者制度の改正点の概要

まず、今回の任意継続被保険者制度の2つの改正内容について見ていきましょう。

(1)資格喪失事由の変更

任意継続被保険者の資格喪失事由について、改正前は、下記のイ)~へ)の6つとされており、本人の意思で資格を喪失することができませんでしたが、改正後はこれらに加えて、任意継続被保険者が任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を保険者に申し出た場合において、その申出が受理された日の属する月の翌月1日に任意継続被保険者の資格を喪失できることとなりました。

任意継続被保険者の資格喪失事由
改正前 イ) 任意継続被保険者となった日から起算して2年を経過したとき
ロ) 被保険者が死亡したとき
ハ) 保険料を納付期限までに納付しなかったとき
ニ) 再就職等で被保険者になったとき
ホ) 船員保険または後期高齢者医療の被保険者となったとき
ヘ) 後期高齢者医療制度の被保険者になったとき
改正後
(上記に追加)
ト) 任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を保険者に申し出た場合において、その申出が受理された日の属する月の末日が到来したとき

これにより、たとえば、親族の健康保険の被扶養者に認定される状況になった場合に、任意で資格喪失することができるようになりました。

(2)健康保険組合における保険料の算定方法の変更

任意継続保険料について、改正前は、①「資格喪失時の標準報酬月額」または②「当該保険者の全被保険者の平均の標準報酬月額」のいずれか低い額に保険料率を乗じた額とされていましたが、改正後は、健康保険組合の規約に定めることにより、②「当該保険者の全被保険者の平均の標準報酬月額」を超え、①「資格喪失時の標準報酬月額」未満の範囲内において規約で定める額を当該健康保険組合の任意継続被保険者の保険料算定の基礎とすることが可能となり、健康保険組合の実情によって保険料の設定ができるようになりました。

2.実務上の留意事項

次に、前記1.の改正内容により、とくに任意継続被保険者制度の被保険者に影響があると思われる事項について、Q&Aをもとに具体的に見ていきましょう。

(1)資格喪失の申出を受理した日とは、被保険者が申出の受付をした日をいうのか。(Q&A 問19)

 

 「受理した日」とは保険者における受理日ではなく、保険者に到達した日(保険者の郵便受けに投函された日等)を指す。

 

任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を申し出た場合、その申出を保険者が受理した日の属する月の翌月1日に資格を喪失することになります。この「受理した日」とは、任意継続被保険者が書類をポストに投函した日や、保険者が受付した日をいうのではなく、保険者に到達した日(保険者の郵便受けに投函された日等)を指すとされています。

(2)任意の資格喪失を申し出た場合の取扱いについて留意すべき事項はあるか。(Q&A 問18)

 

 申出書を受理した日の属する月も被保険者であるため、被保険者証については原則として申出書に添付しないこと(翌月1日以降に保険者が指定する方法 (郵送等)で回収すること)(抜粋)

 

事業主が行う健康保険の一般被保険者の資格喪失手続きの場合には、資格喪失日後に届出を行うため、通常、被保険者証を届出書に添付のうえ返却する必要がありますが、任意継続被保険者制度における任意の資格喪失手続きについては、申出時点ではまだ被保険者としての資格を有しているため、すぐに被保険者証を返却する必要はなく、翌月1日以降に返却すれば良い点に留意が必要です。

(3)任意の資格喪失の申出の取り消しは認められるか。(Q&A 問24)

 

 原則として、認められない。
 ただし、本人の錯誤により申請が行われたなど手続き自体に瑕疵があり、保険者がやむを得ないと認める等の場合には、取り消すことも可能である。

 

上記のQ&Aの回答のとおり、原則として取り消しは認められないこととされています。なお、例外的に認められるケースとしては、本人の錯誤等による申請であって、保険者がやむを得ないと認める場合等とされている点に留意が必要です。

(4)保険料の算定方法の見直しは、どのように実施されるのか。(Q&A 問26・問30を要約)

 

 全国健康保険協会管掌健康保険における任意継続被保険者、健康保険の特例退職被保険者および船員保険の疾病任意継続被保険者の保険料の算定基礎について、改正法による取扱いの変更は生じない。
 健康保険組合の任意継続被保険者の保険料の算定基礎の見直しについては、施行日以降に健保法36条の規定により被保険者資格を喪失した者について適用される。なお、当該見直しの適用にあたっては、健保法16条1項6号に規定する規約変更となるため、同条2項および健保則159条1項1号の2に規定する 地方厚生(支)局の認可を受ける必要があることに留意されたい。

 

この保険料に関する改正は、健康保険組合(組合管掌)に対するものであるため、上記Q&Aのとおり、全国健康保険協会管掌健康保険(協会管掌)における保険料の算定基礎の取扱いは、従来どおり変更ありません。また、健康保険組合の特例退職被保険者等についても従来どおり変更ありません。

健康保険組合がこの制度をすでに導入している場合であっても、施行日(2022年1月1日)以降に一般被保険者の資格を喪失した者について適用することとされていますので、施行日(2022年1月1日)より前に一般被保険者の資格を喪失した場合には、適用されない点に留意が必要です。

3.おわりに

今回は、任意継続被保険者制度の取扱いの変更および実務上の取扱いについて見てきました。企業の人事担当の皆さまは、退職者から退職の際に任意継続被保険者制度についてアドバイスを求められることも考えられますので、改正の内容を適切に説明できるようにしておくとよいでしょう。また、自社の健康保険が組合管掌の場合には、健康保険組合が任意継続者保険制度についてどのように取り扱うのかについて確認しておくとよいでしょう。

以上

 

前回コラム: 【2022年1月施行】傷病手当金の支給期間の取扱いの変更に関する実務上のポイント

 

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

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