2021.12.15
法改正情報
年金手帳の廃止について
2020年5月29日に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立しました。この改正では、被用者保険の適用拡大や在職老齢年金制度の見直しなど、年金制度に関する大きな改正のほか、「年金手帳の廃止および基礎年金番号通知書への切替え」が盛り込まれ、2022年4月1日から施行される予定です。今回は、この年金手帳の変遷や役割、年金手帳廃止の背景、さらには廃止による企業への実務上の影響について見ていきたいと思います。
目次
1. 年金手帳の変遷および現在の役割
年金手帳は、初めて年金制度に加入したときに発行されるものですが、年金に加入した時期によって、表面が茶色、オレンジ色、青色のものがあります(図表参照)。年金手帳には、基礎年金番号のほか、氏名や生年月日、性別、資格取得年月日等が記載されています。また、国民年金および厚生年金保険の加入履歴を記載する欄もありますが、この欄はほとんど活用されていません。そのため、現在の年金手帳は、一人に一つ与えられている「基礎年金番号」を確認するための資料として利用されています。
【図表 年金手帳の変遷】
年 | 年金制度に関するトピック | 年金手帳の変遷 | |
厚生年金関連 | 国民年金関連 | ||
1942(昭和17)年 | 労働者年金保険制度の創設 | 被保険者証(紙カード1枚)の交付 | |
1944(昭和19)年 | 厚生年金保険制度に改称 | ||
1961(昭和36)年 | 国民年金制度の創設 | 国民年金手帳(茶色)の交付 | |
1974(昭和49)年 | 被保険者証と国民年金手帳が年金手帳に一本化 | 年金手帳(オレンジ色)の交付 | |
1997(平成9)年 ~現在 |
基礎年金番号制の導入 | 年金手帳(青色)の交付 |
2. 年金手帳廃止と基礎年金番号通知書への切替え
前述したとおり、年金手帳は、主に基礎年金番号の確認に利用されていますが、近年、行政の被保険者情報の管理がシステムによって行われるようになったことやマイナンバー制度の導入により、手帳の形式である必要性が低くなっていました。
実際に、企業が年金手帳を利用する機会は減っており、従来は、社会保険手続きを行う際に、年金手帳に記載された基礎年金番号を利用していましたが、現在は、原則として、マイナンバーで手続きを行うこととされており、年金手帳を確認する必要がなくなっています。ただし、マイナンバーの提供が困難な場合は、引き続き基礎年金番号による手続きも可能とされています。
こうした行政手続きの簡素化の影響を受けて、年金手帳の発行が廃止され、2022年4月1日以降は、基礎年金番号通知書に切り替えられることになりました。なお、基礎年金番号通知書の様式について、大臣印の印影を入れることなどが決まっていますが、詳細は検討中とされています。
3. 企業の実務における影響
では、年金手帳の廃止や基礎年金番号通知書への切替えは、企業の実務にどのような影響を与えるのでしょうか。
(1)現行の年金手帳の利用
現行の年金手帳は、2022年4月1日以降も引き続き基礎年金番号を明らかにする書類として利用することができるとされています。そのため、企業は、これまでどおり、年金手帳の基礎年金番号を利用して社会保険手続きを行うことが可能です。
また、企業が従業員の入社時に年金手帳を預かり、退職時まで保管しているケースもありますが、現在マイナンバーを利用して社会保険手続きを行うことが可能なため、これを機に、従業員に年金手帳を返却することも考えられます。
(2)基礎年金番号通知書への切替え
企業が社会保険手続きを行うにあたっては、2022年4月1日以降もマイナンバーと併用して基礎年金番号通知書に記載されている基礎年金番号を利用することができます。なお、マイナンバーを利用して手続きを行う場合には、基礎年金番号の届出は不要なため、基礎年金番号通知書を確認する必要がありません。
(3)就業規則改定の要否
上記(2)に関連して、2022年4月1日以降は年金手帳が発行されないため、就業規則において、入社時の提出書類として年金手帳を規定している場合には、見直しが必要となります。
4. おわりに
今回は、年金手帳の変遷や役割、廃止の背景、廃止による企業の実務的な影響について見てきました。昨今の行政手続きの簡素化の流れとともに、現在、企業が行う各種手続きのほとんどがマイナンバーでできることから、年金手帳の廃止により、今後、マイナンバーの利用がさらに進んでいくと考えられます。
以上
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)