2021.11.01
法改正情報
「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が創設されます(前編)
2022年1月1日より、複数の事業主のもとで勤務する65歳以上の労働者を対象として、新たな雇用保険制度「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が開始されます。今回は、この「雇用保険マルチジョブホルダー制度」について、制度の概要とポイントについて見ていきたいと思います。
1.制度創設の経緯
近年、多様な働き方の一つである副業・兼業の増加に伴って、複数の事業主のもとで就業する者(以下「複数就業者」という。)が増えています。この複数就業者については、労働時間管理や労災保険等においていくつかの課題がありますが、今回改正となる雇用保険に関しても、複数の事業所の所定労働時間を合算して週20時間以上となる場合であっても、主たる事業所1ヵ所で週所定労働時間が20時間以上なければ雇用保険に加入できないという問題がありました。
こうした問題を解決するため、複数就業者に対する雇用保険制度の適用と給付のあり方について検討が進められ、新たに「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が創設されることになりました。
なお、わが国における財政上の理由等により、今すぐに複数就業者の全体に雇用保険マルチジョブホルダー制度を適用することが難しいことから、まずは、複数就業者が相対的に増加している65歳以上の労働者に限定したうえで、5年間を目途に効果を検証する試行的な制度とされています。
2.雇用保険マルチジョブホルダー制度と適用要件
上記で見たとおり、複数就業者は、複数の事業所における所定労働時間を合算して週20時間以上となる場合でも、主たる事業所で20時間以上なければ雇用保険に加入できませんが、「雇用保険マルチジョブホルダー制度」の開始以降は、65歳以上の複数就業者が本人の選択する2つの事業所における労働時間を合計して週所定労働時間が20時間以上になる場合に、本人の住所地のハローワークに申し出ることにより、特例的に2つの事業所において雇用保険が適用されます。
この制度の適用を受けようとする場合、次の要件を満たしたうえ、本人が必要書類をそろえて住所地のハローワークに申出をすることにより「マルチ高年齢被保険者」という名称の被保険者資格を得ることになります。
雇用保険マルチジョブホルダー制度 の適用要件 |
(参考)通常の雇用保険制度 の適用要件 |
---|---|
2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること | 31日以上引き続き雇用されることが見込まれること |
なお、この制度の適用を受けるかどうかは、対象者本人が任意に選択できることとされています。
3.適用要件以外の制度のポイント
前述した適用要件のほかにも、雇用保険マルチジョブホルダー制度特有の留意点があります。以下にポイントをまとめましたのでご確認ください。
項 目 | 内 容 |
---|---|
資格取得日 | 本人がハローワークに申し出た日 |
適用の通知 | ハローワークより事業主に対して、対象者がマルチ高年齢被保険者の資格を取得したことについて通知される |
保険料 | 2事業所双方で保険料を支払う必要がある(雇用保険料率は通常の雇用保険制度と同様) |
3つ以上の事業所に雇用されている場合の取扱い | 3つ以上の事業所に雇用されている場合には、うち2つの事業所を本人が選択する なお、雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用後、2つの事業所を任意に切り替えることはできない |
喪失要件 | 離職または適用要件に該当しなくなったときに喪失する なお、1社のみ離職し、3社目を併せて適用要件に該当する場合は一旦喪失したうえで、あらためて申出をする必要がある |
任意脱退 | 喪失事由以外の任意脱退は不可 |
失業時の給付 | 通常の雇用保険制度と同様に高年齢求職者給付金(一時金)が支給される 原則として、離職した事業所の賃金をもとに算定される(1社のみ離職でも受給可) |
4.おわりに
雇用保険マルチジョブホルダー制度の創設により、これまで雇用保険の資格要件を満たさなかった短時間の高年齢労働者について、2022年1月1日以降は、本人がハローワークに申し出ることにより被保険者となることが可能となります。実務上、通常の雇用保険制度と異なる点があるため、申出があったときにスムーズに対応できるよう、制度の内容を把握しておくとよいでしょう。
以上
次回コラム: 「雇用保険マルチジョブホルダー制度が創設されます(後編)」
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)