2021.08.01
法改正情報
健康保険法等の改正ポイント(前編) ~被扶養者認定取扱基準、傷病手当金等の見直し~
2021年4月以降、健康保険の実務に影響する法改正等が続きました。一つは、被扶養者の認定にかかる通知(「夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について」)が新たに発出されたこと、もう一つは、健康保険法等が改正され、傷病手当金の制度や保険料に関する見直しが行われることです。これらの取扱いの変更や法改正のポイントを2回に分けて解説していきたいと思います。
ではまず、夫婦共同扶養の場合における被扶養者認定の取扱基準と、傷病手当金の支給期間の通算化について見ていきたいと思います。
1.夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定の取扱基準のポイント
ここでは、夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定の取扱基準について見ていくことにしましょう。
(1)夫婦共同扶養の場合における被扶養者認定基準の新たな適用
健康保険の被扶養者の認定基準については、これまで、1985年に発出された通知「夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定について」(以下「1985年通知」という。)が適用されていましたが、このたび、新たな通知(以下「2021年通知」という。)が発出され、2021年8月1日から適用されることとなりました(今回の新たな通知の発出に伴い、1985年通知は廃止されます)。
(2)2021年通知の主なポイント
これまでの「1985年通知」では、夫婦が共同して扶養している場合の被扶養者の認定にあたっては、被扶養者とすべきものの人数にかかわらず、被扶養者届が提出された日の前年の年間収入の多い方の被扶養者とすることを原則とし、夫婦双方の年間収入が同程度の場合は、主として生計を維持する者の被扶養者とすることと定められていました。
「2021年通知」においてもこの原則は変わりませんが、子が保険者間で夫婦のいずれの被扶養者とするかを調整している間、その子が無保険状態とならないよう、たとえば年間収入がほぼ同じ夫婦の場合や、主として生計を維持する者が育児休業を取得した場合、夫婦の年間収入が逆転した場合等について、具体的な基準が示されています。「2021年通知」の主なポイントは以下のとおりです。
【夫婦共同扶養の場合における新たな被扶養者認定基準のポイント】
① | 夫婦とも被用者保険の被保険者の場合の取扱い | |
a) | 被保険者の過去の収入、現時点の収入、将来の収入などから今後1年間の収入を見込んだ年間収入が多い方の被扶養者とする。 | |
b) | 夫婦双方の年間収入の差額が年間収入の多い方の1割以内である場合は、被扶養者の地位の安定を図るため、主として生計を維持する者の被扶養者とする。 | |
② | 夫婦の一方が国民健康保険の被保険者の場合の取扱い | |
被用者保険の被保険者については年間収入を、国民健康保険の被保険者については直近の年間所得で見込んだ年間収入を比較して、いずれか多い方を主として生計を維持する者とする。 |
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③ | 主として生計を維持する者が健康保険法第43条の2に定める育児休業等を取得した場合の取扱い | |
主として生計を維持する者が育児休業等を取得した場合、休業期間中は被扶養者の地位安定の観点から、特例的に被扶養者を異動しないこととする。ただし、新たに誕生した子については、あらためて①または②の認定手続きを行うこととする。 |
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④ | 年間収入の逆転に伴い被扶養者認定を削除する場合の取扱い | |
年間収入の逆転に伴い被扶養者認定を削除する場合は、年間収入が多くなった被保険者の方の保険者等が認定することを確認してから削除することとする。 |
2.健康保険法の改正のポイント
次に、健康保険法等の改正について見ていきます。本年の通常国会で「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」が成立し、2021年6月11日に公布されました。この法律は、すべての世代で広く安心を支えていく「全世代対応型の社会保障制度」を構築するため、健康保険法、厚生年金保険法などの関係する法律を改正する内容となっています。
なかでも実務に影響が大きいのは、傷病手当金の支給期間の通算化、任意継続被保険者制度の見直し、育児休業中の保険料の免除要件の見直しの3つです。今回は、傷病手当金の支給期間の通算化について見ていきたいと思います。
(1)傷病手当金の概要
傷病手当金は、被保険者が業務外の事由による療養のため労務に服することができないとき、その労務に服することができなくなった日から起算して4日目以降に支給されます。この傷病手当金の支給期間は、同一の疾病または負傷、およびにこれにより発した疾病に関して、「支給を始めた日から起算して1年6ヵ月を超えない期間」とされています。
(2)現行の傷病手当金制度
現行の傷病手当金の支給期間は、「支給開始日から起算」して1年6ヵ月を超えない期間とされているため、たとえば、病気治療のために入退院を繰り返す場合において、退院期間中に一時的に就労したことにより傷病手当金の支給を受けない期間があっても、支給開始日から1年6ヵ月を経過すると支給が終了してしまいます。このため、同一の疾病が再発した場合に、支給開始日から1年6ヵ月経過後の治療期間については受給できないという問題があります(図表中の①参照)。
(3)支給期間の通算化
改正後は、傷病手当金の支給期間が支給開始日から「通算して1年6ヵ月間」に変更されます(図表中の②参照)。この改正により、支給開始日から1年6ヵ月を経過しても、支給期間が「通算」して1年6ヵ月に達するまで傷病手当金が支給されることとなり、同一の疾病に関して長期間にわたって療養のため休暇を取りながら働くことが可能となります。この支給期間の通算化は、2022年1月1日より施行されます。
【図表】傷病手当金の支給期間
3.おわりに
今回は、健康保険法の「夫婦共同扶養の場合における被扶養者の認定についての取扱基準」および「傷病手当金の支給期間の通算化」について見てきました。被扶養者認定の新たな基準については、本年8月1日から適用されますので、実務に差し障りがないよう取扱基準の内容をよく理解しておくことが大切です。また、健康保険法の改正については、改正内容を理解するとともに、施行時期についてもしっかりと確認しておくことが重要です。
次回は、「任意継続被保険者制度の見直し」および「育児休業中の保険料免除の見直し」について見ていきたいと思います。
以上
次回コラム: 「健康保険法等の改正ポイント(後編)~任意継続被保険者制度および育児休業保険料免除要件の見直し~」
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)
※本コラムは、2021年8月にPHP研究所ビデオアーカイブズプラス『社員研修VAプラス会員専用サイト・人事労務相談室Q&A』で掲載された内容をリライトしたものです。