2021.07.01
法改正情報
育児・介護休業法の改正ポイント(前編) ~男性の育児休業促進のための「出生時育児休業」創設~
今年の通常国会において改正育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律)が成立し、6月9日に公布されました。
本改正の主な内容には、男性の育児休業促進のための「出生時育児休業」の創設のほか、育児休業を取得しやすくするための取得条件の緩和や雇用環境整備の義務付け等があり、企業の実務に大きく関係する内容となっています。
そこで、今回は育児・介護休業法の改正ポイントについて見ていきたいと思います。
1.法改正の背景
近年、わが国では、少子高齢化による労働力人口の減少が問題となっており、そのことが今後の日本の経済成長を低迷させる要因になると言われています。労働力人口の減少を防ぐためには、女性が継続して就業できるようにすることが不可欠ですが、諸外国と比べて日本の男性の家事・育児時間は短く、家事・育児の多くを女性が担っている(※)ことなどから、約5割の女性が出産・育児により離職するなど、女性が仕事と家事・育児を両立することが困難な状況となっています。また、夫の家事・育児時間が長いほど妻の継続就業や第2子以降の出産割合が高くなる傾向にあります(※)が、現状では、男性の育児休業の取得率は女性に比べて著しく低い水準となっている一方、男性には育児休業を取得したいという一定のニーズがある(※)ことが分かっています。
これらのことから、男性が育児休業を取得できない要因を解消することで男性の育児休業取得率を向上させ、男女ともに仕事と育児を両立できるようにすることが求められており、出生時育児休業をはじめとする休業取得促進策を盛り込んだ今回の育児・介護休業法の改正が行われました。
※「労働政策審議会雇用環境・均等分科会」参考資料より
2.現行の育児休業制度の概要
まず、法改正の内容に入る前に、現行の育児休業制度の概要について見ていきたいと思います。育児休業は、原則として1歳に満たない子を養育する労働者が事業主に申し出ることにより子1人につき1回のみ取得できることとされており、事業主はこの申出を拒むことができません。この場合の「労働者」には、女性のみならず男性も含まれます。
育児休業期間は、原則として子が1歳に達するまでとされていますが、子が1歳に達する時点で保育所に入所できない等の事情がある場合には、1歳6ヵ月に達するまで育児休業を延長することができ、1歳6ヵ月の時点でもその事情が解消しないときは、さらに2歳に達するまで延長することができます。
また、夫婦がともに育児休業を取得する場合に休業期間を1歳2ヵ月に達するまでとすることが可能な「パパ・ママ育休プラス」や、配偶者の出産後8週間以内の期間内に育児休業を取得した場合に再度育児休業の取得が可能ないわゆる「パパ休暇」がありますが、いずれも認知度が低く、男性の育児休業取得は進んでいません。
さらに、育児休業中の就労は一時的・臨時的な場合に限られており、恒常的・定期的に就労することが認められておらず、原則として育児休業中は仕事から完全に離れなければならないということが、男性の育児休業取得を困難にしている要因の一つとなっています。
このような状況を踏まえ、今回の改正では、男性の育児休業取得促進のための制度として「出生時育児休業」が創設され、これに伴い「パパ休暇」は廃止されることになりました。
ではつぎに、この制度の概要について見ていきます。
3.出生時育児休業の創設
出生時育児休業の主な内容は以下のとおりです。
① | 子の出生後8週間以内に4週間まで取得が可能となる |
② | 申出期限は原則として休業の2週間前まで(労使協定を締結することにより、1ヵ月前の申出とすることも可能)となる |
③ | 期間内に分割して2回取得することが可能となる |
④ | 労使合意により一定範囲内で就労が可能となる |
⑤ | 雇用保険の育児休業給付の対象となる |
⑥ | 施行日は公布日から1年6ヵ月を超えない範囲内で政令で定める日(予定) |
④のとおり、出生時育児休業は労使協定の締結を前提としており、労使が合意した範囲内で休業中の就業が可能となります。就業する場合の流れは以下のとおりです。
① | 労使協定を締結する |
② | 労働者が出生時育児休業開始日の前日までに事業主に就業してもよい条件を申し出る |
③ | 事業主は労働者が申し出た範囲内で候補日・時間を提示する |
④ | 労働者が同意した範囲内で就業させる |
※ | 就業可能日の上限は厚生労働省令で定められる予定 |
4.おわりに
今回は、改正育児・介護休業法において新たに創設された「出生時育児休業」について見てきました。これまで、育児休業の多くは女性が取得していましたが、今後は、妊娠・出産する予定の配偶者を持つ男性が育児休業を取得することを念頭に、職場環境を整える必要があります。たとえば、出生時育児休業期間は最長でも4週間と短く、休業期間中に新たに代替要員を設けることが難しいことも想定されます。このため、上司や同僚への業務の引継ぎを円滑に進めるために、日頃から業務の属人化を避け、効率化を図るなどの対応を行うことが重要となります。
次回は、改正育児・介護休業法のその他の内容について、育児休業を取得しやすくするために事業主が講ずべき措置や有期雇用労働者の取得条件の緩和、育児休業取得状況の公表義務付け等について見ていきたいと思います。
以上
次回コラム: 「育児・介護休業法の改正ポイント(後編) ~男性の育児休業促進のための「出生時育児休業」創設~」
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)
※本コラムは、2021年7月にPHP研究所ビデオアーカイブズプラス『社員研修VAプラス会員専用サイト・人事労務相談室Q&A』で掲載された内容をリライトしたものです。