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人事労務コラム Column

2021.06.01

法改正情報

労災保険の対象範囲の拡大 ~70歳までの就業機会確保のため業務委託契約を締結した高年齢者は 労災の給付を受けられるか~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

【Q】

当社では、65歳を超える者について継続雇用制度ではなく70歳まで継続的に業務委託契約を締結することを考えています。65歳を超え70歳までの高年齢者について、業務委託契約を締結する場合には、労災保険の給付は受けられるのでしょうか。

【A】

70歳までの就業機会確保措置のうち、業務委託契約を締結するなどの「創業支援等措置」を講じている高年齢者についても特別加入制度の対象とされたため、特別加入を行うことにより労災保険の給付を受けることができます。

 

1.労災保険法の改正趣旨

2021年4月の高年齢者雇用安定法の改正により、70歳までの就業機会確保措置を講ずることが努力義務とされました(詳細は、本コラム「70歳までの就業機会確保措置」参照 )。このうちの「創業支援等措置」を講じられた高年齢者については、労働契約関係にないため、本来、労災保険の適用を受けることができませんが、2021年4月1日に、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)が改正施行され、創業支援等措置を講じられた高年齢者をはじめとする一定の者について、労災保険の特別加入制度の対象になることとされました。本改正は、近年の副業・兼業の普及等の社会経済情勢の変化を踏まえ、対象範囲や運用方法等について、適切かつ現代に合った制度運用となるようにするために行われたものです。

それでは、労災保険特別加入制度の概要について見てみましょう。

2.労災保険特別加入制度とは

労災保険は、労働者の労働災害に対する保護を主目的としており、労働者を一人でも雇う場合には、原則として強制的に労災保険の適用事業所になります。

これに対して、個人で事業を営む者その他労働基準法上の労働者に該当しない者(以下「個人事業主等」という。)については、原則として、労災保険は適用されません。ただし、個人事業主等の中でも、業務の実態、災害の発生状況等から労働基準法の適用労働者に準じて保護すべき者がいることから、労災保険の特別加入制度が設けられています。特別加入制度には、具体的に以下の4つがありますが、このうちのⅰ)~ⅲ)については、特別加入を希望する者自身が労働保険事務組合や特別加入団体を通じて加入することとされています(「ⅳ)海外派遣者」については、事業主または派遣元の団体が加入手続きを行うこととされています)。

 

ⅰ) 中小事業主およびその役員等(中小事業主等)
ⅱ) 一人親方その他の自営業者とその事業に従事する者(一人親方等)
ⅲ) 特定作業従事者
ⅳ) 海外派遣者

 

また、保険料や給付額のもととなる給付基礎日額は、一定の金額のうち、あらかじめ本人が選択した金額をもとに算出され、給付内容は、二次健康診断等給付を除き、原則として通常の労災保険給付と同内容とされています。

3.新たに追加された対象者の種類

今回の改正により、労災保険に特別加入できることとなった対象者は、①柔道整復師、②芸能関係作業従事者、③アニメーション制作作業従事者、④創業支援等措置を講じられた高年齢者の4種類であり、「一人親方等」または「特定作業従事者」として特別加入団体を通じて加入します。該当する事業または作業(以下「事業等」という。)は、それぞれ以下のとおりです。

表 新たに追加された対象者の範囲
表 新たに労災保険特別加入に追加された対象者の範囲

このように、創業支援等措置を講じられた高年齢者には、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する者のほか、70歳まで継続的に事業主が自ら実施する社会貢献事業等に従事する者も含まれることとされています。

4.特別加入を行う際の留意点

上記3.①~④に該当する者であっても、その者が自己の責任の下で労働者を一人でも雇うこととなった場合には、中小事業主等として労働保険事務組合を通じて特別加入を行う必要がある点に留意が必要です。

また、特別加入は、加入を希望する者自身が手続きを行うものであり会社が手続きを行う必要はありませんが、創業支援等措置を講じる高年齢者が安心して働くことができるよう、制度に関する情報提供を行うことが望まれます。

5.おわりに

昨今、政府により、副業・兼業等による雇用関係に捉れない働き方が促進されていることから、労働関係諸法令においてさまざまな改正が行われています。本年3月には「フリーランスガイドライン」が策定され、今回ご紹介した労災保険の特別加入制度において、「自転車配達業」や「情報サービス業」を新たに対象に加えることが検討されているなど、今後もフリーランスに関する法改正等が行われることが考えられます。企業としてはこれらの動向についても注視しておくとよいでしょう。

以上

 

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、2021年6月にPHP研究所ビデオアーカイブズプラス『社員研修VAプラス会員専用サイト・人事労務相談室Q&A』で掲載された内容をリライトしたものです。

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