2021.04.15
法改正情報
押印廃止と電子申請の活用(後編)
前回は、労働基準法に関連する届出等の押印廃止を中心に取り上げましたが、今回は、社会保険に関連する届出等の押印廃止と実務上の留意点および押印廃止に伴って政府が推進する電子申請の動向や活用方法等について見ていきたいと思います。
前回コラム: 「押印廃止と電子申請の活用(前編)」
1.社会保険関係の届出等の押印廃止について
2020年12月末に厚生労働省から省令の改正および告示が公布・施行され、多くの社会保険関係の届出等についても押印または署名が不要となりました。押印廃止の対象となった届出等の一例は以下のとおりです。
【図表 押印廃止とされた様式例(社会保険関連)】
このように多くの届出等の押印が廃止されましたが、一部これまでどおり押印等が必要となる書類があります。たとえば、健康保険・厚生年金保険保険料口座振替納付(変更)申出書の金融機関届出印や出産育児一時金内払依頼書・差額申請書、出産育児一時金支給申請書の市区町村長証明欄の押印、雇用保険適用事業所設置届および雇用保険事業主事業所各種変更届の裏面の登録印は省略できないこととされています。各手続きの詳細や新様式については、厚生労働省、日本年金機構および協会けんぽ等の各ホームページにおいて公表されていますので、申請前に確認するとよいでしょう。また、健康保険に関する届出等の取扱いについては、加入する健康保険組合によって異なる可能性がありますので、留意が必要です。
2.電子申請の活用について
押印廃止に伴い行政手続のオンライン化を推進する動きも見られます。規制改革実施計画では、「コロナ危機への緊急対応およびデジタルガバメントの早期実現のため、全ての行政手続がオンライン化されるために必要な取組みを速やかに実施するべきである。」との方針が示されています。ここでは、電子申請の利用促進のための政府の取組みや事業所における電子申請の活用方法を中心に見ていきたいと思います。
(1)労働基準法等に関連する手続き
まず、労働基準法等に関する手続きについては、現在、労働基準法に定められた51種類の届出、最低賃金法に定められた9種類の申請について電子申請が可能とされています。2021年4月1日からは、電子署名・電子証明書が不要となり、以下の2ステップで届出・申請ができることとされています。
- ①e-Gov からアカウントを登録
- ②フォーマットに必要事項を入力
また、これまで電子申請を利用して申請を行った場合、申請を受け付けたことを知らせる通知文が返ってくるのみで、申請書類の控えに受付印が印字されることはありませんでしたが、2021年4月以降、三六協定届、就業規則(変更)届、1年単位の変形労働時間制に関する協定書については、電子申請を利用した場合でも控え文書への受付印を受け取ることが可能となりました。
さらに、三六協定においては、これまで、協定事項のうち「事業の種類」、「事業の名称」、「事業の所在地(電話番号)」、「労働者数」以外の事項が同一である場合に限り、本社を管轄する労働基準監督署に一括して届け出ることが可能とされていましたが、2021年3月末から事業場ごとに過半数代表者が異なる場合であっても、電子申請に限り三六協定の本社一括届出が可能となったため、電子申請での届出がより便利になりました。
(2)社会保険に関連する手続き
厚生労働省は、厚生年金保険関連と雇用保険関連の手続きについて「オンライン利用率引き上げの基本計画」(以下「基本計画」という。)を策定し、2021年4月より基本計画に沿ってPDCAサイクルを回し、その結果を公表するとともに、オンライン申請の利用率の引き上げのための取組みを進めることとしています。
まず、厚生年金保険関連の手続きにおける基本計画では、現状の課題として、賞与支払届および算定基礎届について、届出を行う際に添付を求めている総括表がCSV添付方式で電子申請を行う場合の弊害となっていることを取り上げ、その解決策として総括表の添付を不要とする方針を示しました。その結果、2021年4月1日以降、賞与支払届および算定基礎届の総括表は廃止されることとなりました。
次に、雇用保険関連の手続きにおける基本計画では、現状の課題として、特に中小企業において、オンライン申請を利用するために必要な初期設定や申請が困難であることを取り上げ、その解決策として、2021年度および2022年度の各年度において、労働局ごとに管内のオンライン申請を利用していない事業所を把握し、年間3,000件以上の事業所に対して雇用保険電子申請アドバイザーによる訪問または電話による説明を行う方針が示されています。
また、健康保険関係の手続きについては、現在、各健康保険組合において電子申請の運用開始に向けた環境整備を図っており、順次電子申請手続きが開始される予定です。具体的な開始予定時期については、厚生労働省のホームページで公表されています。
【参考】厚生労働省、「健康保険組合における電子申請環境の受付体制状況について」https://www.mhlw.go.jp/shinsei_boshu/denshishinesei/index.html(2021年3月26日時点)
なお、現在、電子申請義務化の対象とされている特定法人においては、健康保険組合への届出についても、原則として、電子申請により行うこととなります。そのため、特定法人とされる事業所においては、随時、加入する健康保険組合の電子申請の整備状況および使用中の人事・給与システムの電子申請への対応状況を確認の上、電子申請への切り替えをスムーズに行っていく必要があります。
3.おわりに
前回と今回の2回にわたり、押印の廃止と電子申請の活用について見てきましたが、押印廃止により手続きが簡便になった一方、本人確認等が十分に行われないまま届出等が行われる懸念もあります。そのため、事業主には、各申請や手続きを行う際、なりすまし等による虚偽の届出等がされることのないよう必要に応じて本人確認を行う等の対策を取ることが求められます。
また、政府の行政手続におけるオンライン利用率引上げのための取組みにより、電子申請もこれまで以上に活用しやすくなってきていることから、今後さらなる手続きのオンライン化が進むことが予測されます。今まで電子申請を利用したことがない事業所においては、この機会に導入を検討してみてはいかがでしょうか。
以上
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)
※本コラムは、2021年4月にPHP研究所ビデオアーカイブズプラス『社員研修VAプラス会員専用サイト・人事労務相談室Q&A』で掲載された内容をリライトしたものです。