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人事労務コラム Column

2021.09.06

特集

同一労働同一賃金を巡る最高裁判決③ ~メトロコマース事件~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2020年10月、正規社員と非正規社員との間の労働条件格差について、旧労働契約法20条(以下「旧20条」という。)を巡る5事件(大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便(東京、大阪、佐賀)事件)の最高裁判決が相次いで出されました。これらは同一労働同一賃金の実現を目的とする「パートタイム・有期雇用労働法」の企業対応に大きな影響を与えるものです。

今回は、契約社員に退職金を支給しないことについての合理性が争われたメトロコマース事件(2020年10月13日)の判決の概要および実務上の留意点等について見ていきたいと思います。

なお、旧20条における最高裁判の判断枠組みについては、「同一労働同一賃金を巡る最高裁判決①~旧労働契約法20条の解釈と判決における一般的な判断枠組み~」をご覧ください。

コラム: 同一労働同一賃金を巡る最高裁判決①~旧労働契約法20条の解釈と判決における一般的な判断枠組み~

 

1.事件の概要

本事件は、東京メトロ駅構内の売店で販売業務に従事してきた契約社員B(有期契約)が正社員(無期契約)との労働条件に相違があることは旧20条または公序良俗に違反するとして、株式会社メトロコマースに対して正社員であれば支給されたであろう賃金等の差額に相当する損害賠償等の支払いを求めて争われた事案です。

契約社員Bである原告(4名)は、1年未満の有期契約を10年前後にわたって反復更新され、更新上限の65歳に達して定年退職していました。

本事件で争われた労働条件の相違は下記のとおりです。

<正社員と契約社員Bの労働条件の相違>

なお、2015年1月当時、従業員840名のうち、売店業務に従事する従業員は110名おり、その内訳は正社員18名、契約社員Aが14名、契約社員Bが74名でした。

2.最高裁の判断

一審(東京地裁)では、正社員全体を比較対象とし、正社員と契約社員Bとの間で職務内容に明らかな相違があるとの判断を前提に、待遇のうち早出残業手当を除いて待遇格差は不合理ではないと判断されました。次いで、二審(東京高裁)では、売店業務に従事する正社員を比較対象としたうえで、地裁判決を覆して住宅手当と褒賞、退職金が不合理とされました。今回、最高裁で争点となった退職金は不合理ではないと判断され、高裁判決が覆る結果となりました。

<裁判所の判断>

○:待遇格差は不合理ではない

×:待遇格差は不合理である

-:判断対象外(高裁判決確定)

3.退職金にかかる最高裁の判断のポイント

ここでは、退職金にかかる最高裁判所の判断のポイントについて見ていきたいと思います。

(1)退職金の性質および目的について

会社は正社員に対し、一時金として退職金を支給する制度を設けており、規程により支給対象者の範囲や支給基準、方法を定めていました。退職金は職務遂行能力や責任の程度を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤労に対する功労報賞等の複合的な性質を有しており、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保や定着を図ることを目的として支給しているとされました。

(2)「職務の内容」について

比較対象となる正社員を「販売業務に従事する正社員」とし、正社員と契約社員Bの業務の内容はおおむね共通するとしたものの、正社員は休暇や欠勤により不在になる販売員の代替として出勤する必要があるほか、複数店舗を統括するエリアマネージャーの業務を務めることがあるのに対して、契約社員Bはもっぱら売店の業務に従事していました。これらのことから、業務の内容および当該業務に伴う責任の程度に一定の相違があったことが否定できないとされました。

(3)「職務の内容および配置の変更範囲」について

売店業務に従事する正社員は、業務の必要により配置転換等を命ぜられる現実の可能性があるのに対し、契約社員Bは、就業場所の変更を命ぜられることはあっても業務内容に変更はなく、配置転換等を命ぜられることはなかったため、職務の内容および配置の変更の範囲に一定の相違があったことが否定できないとされました。

(4)「その他の事情」について

比較対象とされた売店業務に従事する正社員は、他の多数の正社員とは職務の内容および変更の範囲に相違があったものの、これは会社の組織再編等に起因する特別な事情によるものであったことを「その他の事情」として考慮するのが相当とされました。

また、契約社員Bには、契約社員Bから契約社員A、契約社員Aから正社員へと段階的に職種を変更するための登用試験制度があり、その運用実態もあったことから、「その他の事情」として考慮するのが相当とされました。

(5)結論

正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて、正社員と契約社員Bの職務の内容、職務の内容および配置の変更範囲、その他の事情等を考慮すれば、契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ、定年65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず、原告らが10年前後の勤続期間を有していたことをしんしゃくしても、両者の間に退職金の支給の有無にかかる労働条件の相違があることは、不合理とまではいえないとされました。

4.おわりに

以上のとおり、本事件では、契約社員に退職金を支給しないことについて不合理ではないと判断されましたが、これはあくまで個別の事案に対する判断であり、契約社員であれば退職金を支給しなくてもよいとされたわけではない点に留意しておく必要があります。

なお、5人の裁判官のうち、一人の裁判官から「退職金が含む継続勤務への功労報償との性質は契約社員にも当てはまる。契約社員は売店業務に従事する正社員と職務内容や変更の範囲に大きな相違はない。退職金の支給に係る労働条件の相違は不合理と評価することができる」との異例の反対意見が付されています。

 


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