2015.10.01
特集
ストレスチェック制度の概要と実務対応
近年、精神障害に起因する労災の発生件数が年を追うごとに増加している状況において、メンタルヘルス不調の未然防止は喫緊の課題となっています。こうしたなか、2014年6月に、労働安全衛生法が改正され、メンタルヘルス不調の未然防止を目的としたストレスチェック制度が創設されました。2015年の12月からいよいよストレスチェック制度がスタートします。
そこで、今回は、ストレスチェック制度の概要と企業の実務的な対応について解説します。
1.ストレスチェック制度の概要
まずストレスチェック制度の概要について見ていきたいと思います。
ストレスチェック制度は、労働者が自らのストレス状態を知り、ストレスを溜め過ぎないように対処したり、ストレスが高い状態にある場合に医師の助言を受けたり、会社に対して仕事の軽減措置の実施を求めたり、あるいは職場の改善につなげたりすることで、“うつ”などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みです。
実施が義務付けられているのは常時使用する労働者が50人以上の事業所とされており、50人未満の事業所については、当分の間、努力義務とされています。
実施対象者は、常時使用する労働者とされており、今年の12月以降、各人ごとに毎年1回以上ストレスチェックを実施することとされています。このため、第1回目は今年の12月から来年11月までの間に実施する必要があります。
2.ストレスチェック制度の実施手順
では、ストレスチェック制度の実施手順について見てみましょう。
(1)導入前準備
まずストレスチェック制度を導入する前に、ストレスチェックに関する基本方針を表明し、衛生委員会などにおいて実施方法や実施状況等について調査審議することとされています。そして、ストレスチェック制度の実施に関する規程を定め、あらかじめ労働者に周知する必要があります。
また、事業所ごとに、ストレスチェック制度担当者、ストレスチェックの実施者、個人情報を取り扱う事務を担当する実施事務従事者、面接指導を担当する医師など、具体的に実施体制を整備する必要があります。
この場合、実施者は、医師、保健師、厚生労働大臣が定める研修を修了した看護師または精神保健福祉士のいずれかでなければなりません。事業所ごとに産業医がいれば、産業医でも構いません。
また、実施事務従事者は、質問票の回収や内容の確認、データ入力、評価点数の算出等の健康情報を取り扱う事務を行うものであり、直接、人事権を有する監督的地位にある者、たとえば、人事部長や人事担当役員、社長などがこれになることはできませんので留意が必要です。
(2)質問票の配布・記入
つぎに、質問票についてですが、質問項目は、①職場のストレス要因、②心身のストレス反応、③周囲のサポート、に関する3つの質問項目が含まれていることが必要とされています。国が推奨する57項目の質問票を使うこととしてもよいでしょう。
(3)ストレス状況の評価・医師の面接指導の要否判定
この質問票をもとに、実施者がストレスの程度を評価し、高ストレス者として医師の面接指導が必要な者を抽出します。
(4)本人への結果通知
評価結果や高ストレスかどうか、医師の面接指導が必要かなどは、実施者から本人に直接通知することとされており、実施者が本人の同意なく事業者に提供することは禁止されています。
3.面接指導の実施と就業上の措置
つぎに、面接指導の実施と就業上の措置についてですが、ストレスチェックの結果、医師による面接指導が必要とされた労働者から申出があった場合、事業者は、1ヵ月以内に医師に依頼して面接指導を実施しなければなりません。
事業者は、面接指導を実施した医師から、就業上の措置の必要性の有無とその内容について意見を聴き、それを踏まえて労働時間の短縮などの措置を講じる必要があります。
4.職場分析と職場環境の改善
つぎに、職場分析と職場環境の改善についてですが、事業者は、実施者に対して、ストレスチェックの結果について、部や課など一定の集団ごとに集計・分析を行わせ、その結果の提供を受けることが努力義務として課されています。
集団ごとに質問票の項目ごとの平均値などを比較、分析することにより、集団ごとのストレスの状況を把握し、職場環境の改善に役立てることが期待されているのです。
なお、集団の規模が10人に満たない場合、個人が特定されてしまうおそれがあるため、原則として、その集団の全員の同意がない限り、実施者から結果の提供を受けることができませんので、留意が必要です。
5.労働者の保護
最後に、労働者のプライバシー保護と不利益取扱いの防止についてですが、ストレスチェックや面接指導で個人の情報を取り扱った実施者や実施事務従事者には、法律により守秘義務が課されており、違反した場合には刑罰の対象となります。事業者は評価結果などの情報を不正に入手してはならず、また実施者、実施事務従事者は第三者に閲覧されないよう、結果を適切に管理することが義務付けられているのです。
また、事業者は、労働者がストレスチェックを受けないこと、ストレスチェックの結果について事業者へ提供することに同意しないこと、医師による面接指導の申出を行ったことなどを理由として、解雇、雇い止め、退職勧奨等の不利益な取扱いを行ってはならないこととされていますので、留意が必要です。
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原 伸吾(特定社会保険労務士)
※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2015年10月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。