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人事労務コラム Column

2019.04.01

法改正情報

時間外労働の上限規制の改正のポイントと実務上の留意点

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2018年に成立した働き方改革関連法により、時間外労働の上限が法律に規定されることとなりました。これにより、大企業については2019年4月から、中小企業についても2020年4月から法律への対応が必要となります。

そこで、本コラムでは、時間外労働の上限規制の改正のポイントと実務上の留意点について解説します。

1.改正前の時間外労働の上限規制

これまで、三六協定で定めることができる時間外労働の上限については、厚生労働大臣による告示で、1ヵ月45時間、1年360時間とする限度基準が定められていました。しかし、これは法律ではなくあくまで告示によるもので、この上限を守らなくても、ただちに法違反を問われることはありませんでした。

また、上限時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が想定される場合には、特別条項を締結することにより、1年の半分の期間について上限時間を超えて時間外労働を命じることができることとされていますが、この特別条項にはこれまで上限が設けられておらず、1ヵ月100時間とか120時間など制限なく延長時間を定めることができることから、一部のメディアでは、青天井との批判的な報道がなされていました。

2.改正後の時間外労働の上限規制

改正法施行後は、時間外労働の上限について、これまで告示で定められていた限度基準が法律に格上げされ、原則として、1ヵ月45時間、1年360時間を超えて三六協定を締結することができないこととされました。

また、今回の改正では特別条項についても法律に格上げされ、臨時的に特別の事情があって労使が合意する場合でも、休日労働を含めて1ヵ月100時間未満、1年720時間以内との上限時間が設けられるとともに、休日労働を含めて2~6ヵ月平均80時間以内とする規制が設けられました。

では、これらについて、もう少し詳しく見ていくことにしましょう。

(1)休日労働を含めて1カ月100時間未満

まず「休日労働を含めて1ヵ月100時間未満」の上限時間についてですが、従来までは、休日労働を含まず時間外労働のみの時間が特別条項の上限の範囲に収まればよいこととされていましたが、改正法では、休日労働を含めて1ヵ月100時間未満に抑えなければならないこととされました。

たとえば、特別条項を1ヵ月99時間で締結しているケースにおいて、ある月に時間外労働が99時間だった場合、特別条項の上限時間の範囲には収まりますが、このほかに休日労働を1時間でも行わせた場合には、合計100時間以上となり、法違反となります。

(2)休日労働を含め2~6ヵ月平均80時間以内

つぎに「休日労働を含めて2~6ヵ月平均80時間以内」とする規制についてですが、これは、三六協定の特別条項によって、かりに月80時間を超える時間を定めた場合であっても、直前2ヵ月から6ヵ月までのそれぞれすべての期間について、休日労働を含め平均80時間を超えてはならないということです。

たとえば、特別条項を1ヵ月90時間で締結しているケースにおいて、ある月の時間外・休日労働が90時間だった場合、単月では問題ありませんが、2~6ヵ月平均で80時間以内とするためには、その翌月は最長でも70時間以内に抑えなければならず、同様に、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月のいずれの期間の平均についても80時間を超えないようにしなければならないということです。

また、時間外労働の1ヵ月の上限は、原則として45時間とされており、特別条項を締結していない場合には、そもそも月45時間を超えて時間外労働をさせることができないため、複数月平均80時間以内の規制に対する時間管理は必要ないように思われますが、時間外労働が月45時間以内の場合でも、休日労働を月35時間以上行わせた場合には、45時間+35時間で、時間外労働と休日労働の合計時間数が80時間に達することとなり、法違反となる可能性がありますので留意が必要です。

3.さいごに

以上、時間外労働の上限規制に係る改正ポイントと実務上の留意点について見てきました。

今回の改正により、これまで大臣告示で定められていた時間外労働の限度基準が法律に規定されることとなったため、これまで以上に労働時間管理を徹底することが求められます。

また、新たな基準である「1ヵ月100時間未満」および「2~6ヵ月平均80時間以内」については、時間外労働だけでなく休日労働も含めた合計時間を管理しなければならない点にも留意が必要です。

なお、1ヵ月45時間、年360時間とする原則的な上限時間や特別条項による年720時間の上限時間については、事業場ごとに計算することとなりますが、「1ヵ月100時間未満」、「2~6ヵ月平均80時間以内」の規制は、労働者個人の労働時間を規制するものであるため、転勤等により労働者の事業場が変わった場合であっても、個人ごとに通算して管理しなければなりません。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2019年4月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。

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