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人事労務コラム Column

2018.06.01

特集

労働基準監督署の監督指導に対する対応実務

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2018年4月6日に残業時間に上限を設けることが盛り込まれた働き方改革関連法案が国会に提出され、あらためて「働き方改革」が注目されているところですが、メディアでも大きく報道された大手広告代理店社員の過労自殺への社会的関心の高まりや、近年の過度な人材不足等を背景に、過重労働の是正や三六協定の限度時間の遵守、従業員の健康管理への対応は喫緊の課題となっています。

このような中、厚生労働省は、違法残業の監督指導を強化する方針を打ち出し、今年度から監督署OBを非常勤職員として活用するなど、事業所への立入り調査を強化していく方針を明らかにしています。

そこで、今回は労働基準監督署による監督指導の概要と事業場への立入り調査、いわゆる臨検の際の対応実務について解説します。

1.監督指導とは

労働基準監督署による監督指導には、労働基準法や労働安全衛生法等に基づいて定期的に行われる定期監督のほか、従業員からの申告に基づいて行われる申告監督などがあります。労働基準監督官は、事務所や工場などに立ち入り、帳簿や機械・設備などを調査して従業員の労働条件について確認したうえで、法違反が認められる場合には、使用者に対して是正勧告や是正指導を行います。監督官は、特別司法警察員としての権限を有しており、悪質な違法行為がある場合には、強制捜査や証拠物品の押収を行うことができるなど、非常に強い権限を与えられています。

臨検にあたっては、通常、FAXや電話による事前連絡がありますが、監督官が予告なく突然会社にやって来るケースもあります。

また、一定の日時や場所、持参すべき帳簿等を通知して、労働基準監督署に呼び出すケースもあります。この場合、社長や支店長など事業場の代表者か労務担当責任者など、事業場における一定の責任者の出席が求められるのが一般的です。なお、監督官から指定された日に都合が合わない場合には、別日程で調整をお願いすることも可能です。

2.臨検時の対応

呼出しによる臨検の場合の持参書類としては、一般に就業規則やタイムカード、賃金台帳、三六協定、労働者名簿、年次有給休暇管理簿、健康診断個人票の帳簿などがありますが、これらのほか、「自主点検表」を事前にFAXで提出するよう求められることもあります。この点検表では、業種や事業内容、事業場の労働者数のほか、労働条件通知書の交付の有無、就業規則の作成・届出の有無、労働時間・休日数、三六協定の締結・届出の有無、最低賃金の達成状況、割増賃金の支払状況、健康診断実施の有無などについて事前にチェックし、申告を行うことになります。

臨検では、これらの提出書類をもとに労働条件等に関する調査が行われますが、監督官との対応の際には、虚偽申告やその場しのぎの対応とならないよう誠実に対応することが重要です。

3.臨検における重点ポイント

監督指導における違反内容としては、労働時間、割増賃金、安全衛生の順に件数が多くなっています。そこで、この3つのポイントについて詳しく解説します。

(1)労働時間

まず、労働時間関係についてですが、主にタイムカードや三六協定、そして変形労働時間制を採用している場合はその関係書類をもとに調査が行われます。

特に、従業員に対して法定労働時間を超える時間外労働を命じたり、法定休日の労働を命じるためには、三六協定の締結が必要ですが、三六協定なしに時間外労働や休日労働をさせている場合には、直ちに法違反として是正勧告の対象となります。また、三六協定は、締結するだけでは足りず、所轄労働基準監督署に届出を行った日から初めて効力が発生する点にも留意が必要です。

このほか、タイムカードやICカード等による勤務時間の記録と、入退室記録やパソコンのログイン・ログアウト時間の記録との間に差異がある場合、その時間に労働していなかったかを厳格に確認されるケースが増えていますので、労働時間の適正な把握方法について、あらためて検討することが求められているといえます。

(2)割増賃金

次に、割増賃金関係に関しては、タイムカードや賃金台帳をもとに調査が行われますが、多くの違反事例では、割増賃金が支払われていなかったり、時間外・休日労働の時間数に対して支払われた割増賃金が不足していたなどのケースが見られます。また、割増賃金の基礎となる時間単価の計算にあたって、単価に含めなければならない手当を除外していたり、所定労働時間数を実際より長くするなどによって、割増賃金単価が低く設定されているケースも少なくありません。

なお、臨検によって割増賃金の不払いを指摘された場合、通常、過去3ヵ月分の遡及支払いを命じられますが、労働基準法上の賃金の時効は2年間とされており、3ヵ月についての法律上の根拠があるわけではありませんので、場合によっては半年分とか1年分、2年分の遡及支払いを命じられることもあり得ます。このため、日頃から賃金不払いが生じないよう適正に管理することが大切です。

(3)安全衛生

最後に、安全衛生関係では、雇入れ時の健康診断や1年以内ごとに1回の定期健康診断の実施の有無、長時間労働者に対する医師による面接指導、さらには常時50人以上の従業員を使用する事業所における衛生管理者の選任の実施状況等について重点的に調査が行われています。

最近の傾向として、安全衛生について非常に厳格な監督指導が行われており、たとえば、健康診断等の結果、異常の所見があると診断された労働者に関して、「就業制限が必要」とか「休業が必要」などといった就業上の措置について、医師等の意見を聴取し、健康診断個人票に記載する義務を怠った場合、是正勧告が出されるケースも出てきています。

4.おわりに

今回は労働基準監督署による監督指導について見てきましたが、臨検の際に指摘を受けるおそれがある場合でも、その場を取り繕うための回答をするのではなく、しっかりと事実を述べ、将来に向かって改善していくという姿勢で臨むことが大切です。

また、企業の人事担当者だけで対応、改善が難しい場合には、専門家である社労士に、臨検に向けた事前準備や調査立会い、指摘事項の改善支援などを依頼することも有効な手立てといえます。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2018年6月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。

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