2018.04.16
特集
裁量労働制②~裁量労働制の運用に係る留意点~
裁量労働制は、業務遂行の手段や方法、時間配分の決定等に関して、大幅に労働者の裁量に委ねる制度ですが、労働時間の把握義務や休憩、深夜業、休日労働、遅刻・早退、欠勤、さらには年次有給休暇をどのように取り扱うかは問題となるところです。
そこで、今回は裁量労働制の運用に係る留意点について見ていきたいと思います。
※本コラムは2024年3月までの法令等に基づく内容です。
裁量労働制についての最新の法改正情報はこちら:
【2024年4月改正】裁量労働制の見直しについてわかりやすく解説(前編)~ 専門業務型裁量労働制の改正内容 ~
1.労働時間の把握義務
裁量労働制は、業務遂行の手段や方法、時間配分の決定等に関し労働者の裁量に委ねる制度であるため、使用者は実際の労働時間の把握を要しないこととされています(平29.1.20基発0120第3号「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置の基準に関するガイドライン」)。
しかし、一方で裁量労働制の下では、使用者に対象労働者の健康および福祉を確保するための措置を講ずることが求められており、いかなる時間帯にどの程度の時間在社し、労務を提供し得る状態にあったか等が分かるよう、出退勤時刻の記録等によって労働時間を把握しなければならないこととされています。このため、実質的には労働時間を把握する必要があるということができます。
2.休憩、深夜業、休日労働の取扱い
労働基準法施行規則第24条の2の2では、「法第38条の3第1項(専門業務型裁量労働制)の規定は、法第4章の労働時間に関する規定の適用に係る労働時間の算定について適用する」と定められており、裁量労働制の下でも、休憩、深夜業、休日に関する労働基準法の規定は排除されていません。
したがって、裁量労働制を採用する場合にも、原則として労働時間の途中に一斉に休憩を与えなければならないこととされているため、一斉付与の適用が除外されていない事業において、休憩を労働者の任意の時間に与えることとする場合には、休憩の一斉付与適用除外に関する労使協定を締結しておく必要があります。また、対象労働者が深夜や休日に労働した場合には、みなし労働時間に対する手当とは別に、割増賃金を支払う必要があります。なお、裁量労働制における「みなし労働時間」は、通常、所定労働日についてみなすものであるため、休日に労働した場合には、就業規則等に特段の定めがない限り、実労働時間で計算した割増賃金を支払わなければならない点にも留意が必要です。
3.遅刻、早退の取扱い
前述したとおり、裁量労働制は、業務遂行の手段や方法、時間配分の決定等に関し労働者の裁量に委ねる制度であるため、対象労働者には遅刻、早退という概念はありませんが、裁量労働制はフレックスタイム制のように、「各日の始業・終業時刻の決定」を労働者に委ねるものではないため、業務の遂行手段および時間配分の決定等以外については、使用者は、労働者に対して必要な指示をすることができます。
しかし、裁量労働制の下では、業務の遂行手段や時間配分等について厳格な管理をしないことがその趣旨であることから、労働者が始業時刻に遅れたり、終業時刻より早く退社(早退)した場合に賃金カットしたり、人事考課でマイナス評価をする等の不利益な取扱いをすることは適切な取扱いとはいえません。
4.欠勤の取扱い
裁量労働制における労働時間の算定について「みなし規定」が適用されるのは、労働者を労使協定に定める「対象業務」に就かせたときであり、労使協定でみなし労働時間と協定するのは「1日あたりの労働時間」についてです。したがって、欠勤したことによって労働しなかった場合には、「みなし規定」は適用されず、その日については欠勤控除をすることとしても問題とはなりません。
5.年次有給休暇の取扱い
裁量労働制の下でも年次有給休暇の請求があったときは、これを与えなければなりませんが、裁量労働制には、フレックスタイム制のように「1日の標準労働時間」という考え方がないため、年次有給休暇を取得した日の賃金については、通常の労働時間分を支払うのか、みなし労働時間分を支払うのかが問題となるところです。
しかし、この点に関する行政通達は出されていないため、通常の賃金(所定労働時間に対する賃金)を支払うこととするか、労使協定でみなすこととした時間に対する賃金を支払うこととするかについて、あらかじめ就業規則または労使協定で定めておく必要があります。
6.おわりに
裁量労働制の下では、労働時間の把握を要しないとされる一方、労働時間の状況に応じた健康および福祉を確保するための措置を講じなければならず、また、深夜業および休日労働を行った場合には、割増賃金を支払わなければなりません。
このため、裁量労働制の対象労働者であっても、出退勤時刻や入退室記録等によって健康確保を図るための適正な労働時間管理を行うとともに、長時間労働が認められる労働者に対して産業医面談を実施するなど、運用にあたっては適切な措置を講ずることが求められます。
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原 伸吾(特定社会保険労務士)
※本コラムはWEBサイト「PHP人材開発」(PHP研究所)掲載「遅刻、早退は?労働時間は把握する?裁量労働制の運用に係る留意点」(2018/4/16更新)に寄稿したものを一部編集したものです。